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「だけど一馬は、『好き』は隣にいられる権利だって言った。俺の思う未来には当然のように一馬が隣にいるし、一馬の未来にも、当然のように俺が隣にいると思ってた。だけどそうじゃないんだなって、一馬の言葉で気がついた」
一馬の瞳がきらきらと輝きながら揺らいでいるのがわかる。そのきらめきは次第に、重力に従って下睫毛の上で大きな塊を作った。そして、いよいよ堪えられなくなって、ぼとりと落ちる。
「俺は一馬が好きだけど、一馬を傷つけちゃうのかもしれないって思う。でも俺は、一馬の隣にいたい。一馬の隣にいるのも、俺じゃないと嫌だ。だから、俺は、苦手なことにもちゃんと向き合わないといけないんだと思う」
一馬は落ちた涙もそのままに、きゅうっと下唇を噛み締めた。なんとも情けない顔で、しかし律儀にも、玲に尋ねてくる。
「……もう話したいことはこれで全部? 口を挟んでもいい?」
玲は目を細める。
「いい、」
いいよ、と言おうとしたのに、最後の一文字が言えなかった。
一馬は「口を挟んでもいいか」と尋ねてきたくせに、実際は物理的に玲の言葉を止めてきたのだ。一馬は玲に飛びかかるように、抱きついてきたのだった。
「うわっ」
玲は一馬の体重を受け止めきれずに、そのまま砂浜に押し倒される。砂は柔らかく、そして抱きついてきた一馬の手が玲の頭も守ってくれたから痛くはなかったけれど、突然のことに驚いて、玲は悲鳴のような声を上げてしまった。
「ちょっと、一馬……」
「好きって、本当?」
文句を言おうとする玲の言葉に、一馬が重ねてくる。これまでにない近距離、耳元で聞こえてくる一馬の声に、自然と心臓が跳ね上がる。体温も上がってしまう。玲は居心地悪さにもぞりと唇を蠢かした。
「……さっき言ったじゃん。ぶつかり合う愛情表現は苦手だって」
「でも、苦手なことにもちゃんと向き合わなきゃって、玲は言った」
「……確かに、言った」
「ふふ」
一馬は笑った。多幸感に満ちた、幸せな笑いだった。
「ねえ、言ってよ」
一馬の声は甘い。こんな一馬の声音は知らない。気恥ずかしい。けれど、嫌ではない。なぜならそれは、一馬の隣にいることが許されたからこそ聞くことのできる声だと思うから。
「さっき、何度も言った」
そう応える自分の声音も、大概だと思った。拗ねたようで、けれど、最大限の甘えが滲んでいる。一馬も、それをわかっている。
「ちゃんと聞きたい。玲は、俺のことが好き?」
玲はくたりと体の力を抜いた。砂の上に無防備に寝転がり、乗っかっている一馬の体重を受け入れる。そして、一馬の首に手を回した。近距離で、目と目を合わせる。目を合わせたまま、確かめるように、玲は一馬の首に置く腕に力を込める。たぐり寄せるように、自分のほうへと一馬の顔を近づける。
「れ、玲っ」
一馬の焦ったような顔を見て、玲は思わずにんまりと笑ってしまった。目を細め、唇が擦り合いそうな距離でやっと、玲は言う。
「好き」
そしてそのまま目を閉じると、一馬の唇と自分の唇を重ね合わせた。
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