9月になると思い出す事

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9月になると思い出す事

 踏み切りが近づいていた。カンカンという警告音と共に、停止棒が下りていくのが見えた。その棒に阻まれたのは、ボク一人ではなかった。肩くらいまで髪を伸ばした女性が、ボクの前で、足を止めていた。その髪色が、何となく、ボクの上司である女性課長に似ている気がした。ボクを虐めて、休職に追い込んだヤツ。ほんの一瞬だけ、怒りが込み上げたが、本当に一瞬の事だ。  電車が近づく音がし始めた。すると、彼女は、何と、線路に入ろうとした。驚いたなんてものじゃなかった。あの時の事は、今でも、トラウマになっている。ボクは、必死で、彼女を引き戻した。  彼女は、突っ伏して、しばらく泣いた。彼女の顔は、全然課長には似てなかった。  その時、ボクは、彼女の運命を変えたのだろう。見も知らぬ他人だったのに。ただ、あの場にいあわせただけで。
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