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「はっきり言って、才能無いよ。」 社長に言われた言葉が肩に重くのしかかる。 公園のベンチにもう何時間、こうして座っているだろう。 社長は数年前、SNSで細々と動画を上げていた僕を見つけてくれた人だ。 魂を込めたデビュー曲はチャートにランクインすることは無かったものの、音楽好きで有名なパーソナリティが深夜ラジオで1度だけかけてくれた。 「これはバズる流れだぞ」なんて社長は喜んだけれど、 それっきりメディアで話題になることもなく、鳴かず飛ばずの僕に彼が放った言葉が「才能無い」だ。 原石だ!って言ってくれたのに、どうやら磨いたところでただの石ころだと気付いてしまったらしい。 最近は新人アイドルに楽曲を提供するのはどうかなんて言われて何曲か作ってみたけれど、それもいまいち反応が良くない。 「メロディーはいいんだよ、ただ、歌詞がなぁ。リアリティが無いっていうのかな。胸にぐっとくるものが無いんだよね。」 僕が引きこもりだったこと、社長だって知ってるくせに。 まともな学校生活も青春も僕は知らないんだ。 リアリティなんてあってたまるか。 それなのに、「アオハルって感じのさわやかな曲を作って」だもんなぁ… 契約期限まであと数ヶ月。もう更新はされないだろう。 はぁぁ…… 僕は今日何億回目かのため息をついた。 いつのまにかすっかり日は暮れて公園は真っ暗。遊んでいた子供達もとっくに帰ってしまった様だった。 「帰ろ。」 殆ど息みたいな掠れた声でつぶやいて、重い腰を上げ歩き出す。 帰り道、近所のコンビニに立ち寄った。 エナジードリンクとカップラーメンとサラダチキン。 買うものはいつも決まっているから、店員に変なあだ名でもつけられているかもしれない。 ふと、ガラスにうつる自分の姿が目に入る。 伸ばしっぱなしでぼさぼさの髪にくたびれたグレーのパーカー。 こんな冴えないおっさんにアオハルて…… だいたいアオハルなんて言葉自体死語じゃないのか?社長だっていいおじさんじゃないか。そもそもあの、えーと、あれだ… 悪態をつくことに慣れなさすぎて、心の中で悪口を捻り出す事さえうまくできない。
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