02_これが噂の『恋するバスクチーズケーキ』

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

02_これが噂の『恋するバスクチーズケーキ』

 コンビニ限定スイーツ、『運命の恋』シリーズの最新作。『恋するバスクチーズケーキ』。  手のひらサイズの小ぶりなバスクチーズケーキで、税込みワンコイン以下。高校生のふところにもギリギリ優しい値段設定であった。  今日はその発売日である。  わくわくとこの日を待っていた。待ち焦がれていたといってもいい。  気にしすぎだとはわかっている。それでも沼崎の妨害にあわないよう、自宅そばのコンビニを選んだ。  教室を出る前に、沼崎が部活へ向かうのも確認済みだ。よしよし。お前はおとなしくサッカーボールと戯れているがよい。ふふん。    だがしかし、であった。 「なんでっ」  ヤツがいた。チルドコーナ、スイーツの棚の前。しかもバスクチーズケーキに手を伸ばしている。ヤツがレジへ向かうのを待って棚へ駆けより、目を見開く。  ……残数はゼロであった。  怒りで視界が白くなる。コンビニの床に膝をつきたくなるのをかろうじて堪えて外に出る。  ……あんなに楽しみにしていたのにな。  ……芽衣にも「しつこい」っていわれるくらい、その美味しさを語ってきたのにな。  ……明日がある。明日買えばいい。……わかってる。だけど、だけどさ。もし明日も沼崎に先手を打たれたらどうすればいいのさ。 「新川(しんかわ)~」  不意に呼ばれて「なによっ」と振り向いた。目の前に沼崎がいた。あんたいったい、と思うより先に口へなにかを突っ込まれた。  面食らって咳き込みそうになって、目をしばたたく。……甘い。   「うまい~?」 「なにこれ、ひょっとしてバスクチーズケーキ?」 「うんそう。運命のバスクチーズケーキ。これでお前も運命だな」 「なにをいってんのか、さっぱりなんだけど」 「だってお前、これ、食いたかっただろう?」 「どうして知ってんのよ」 「教室であんなに騒いでいりゃ嫌でも耳に入るってやつよ」  くそう、聞かれていた。恥ずかしさと悔しさで身を縮めるあたしを無視して、沼崎は残りのバスクチーズケーキへかぶりつく。 「あ~。本当だ。うまいや。このこってりさがいいよな。まったりっていうか、酸味との風合いが絶妙っていうか」  うまうま、と沼崎はバスクチーズケーキを平らげる。  ……こいつ、なにがしたいんだ。  っていうか、とあたしはようやく我に返る。 「あんた、あたしが後ろにいるって知ってたんでしょ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!