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02_これが噂の『恋するバスクチーズケーキ』
コンビニ限定スイーツ、『運命の恋』シリーズの最新作。『恋するバスクチーズケーキ』。
手のひらサイズの小ぶりなバスクチーズケーキで、税込みワンコイン以下。高校生のふところにもギリギリ優しい値段設定であった。
今日はその発売日である。
わくわくとこの日を待っていた。待ち焦がれていたといってもいい。
気にしすぎだとはわかっている。それでも沼崎の妨害にあわないよう、自宅そばのコンビニを選んだ。
教室を出る前に、沼崎が部活へ向かうのも確認済みだ。よしよし。お前はおとなしくサッカーボールと戯れているがよい。ふふん。
だがしかし、であった。
「なんでっ」
ヤツがいた。チルドコーナ、スイーツの棚の前。しかもバスクチーズケーキに手を伸ばしている。ヤツがレジへ向かうのを待って棚へ駆けより、目を見開く。
……残数はゼロであった。
怒りで視界が白くなる。コンビニの床に膝をつきたくなるのをかろうじて堪えて外に出る。
……あんなに楽しみにしていたのにな。
……芽衣にも「しつこい」っていわれるくらい、その美味しさを語ってきたのにな。
……明日がある。明日買えばいい。……わかってる。だけど、だけどさ。もし明日も沼崎に先手を打たれたらどうすればいいのさ。
「新川~」
不意に呼ばれて「なによっ」と振り向いた。目の前に沼崎がいた。あんたいったい、と思うより先に口へなにかを突っ込まれた。
面食らって咳き込みそうになって、目をしばたたく。……甘い。
「うまい~?」
「なにこれ、ひょっとしてバスクチーズケーキ?」
「うんそう。運命のバスクチーズケーキ。これでお前も運命だな」
「なにをいってんのか、さっぱりなんだけど」
「だってお前、これ、食いたかっただろう?」
「どうして知ってんのよ」
「教室であんなに騒いでいりゃ嫌でも耳に入るってやつよ」
くそう、聞かれていた。恥ずかしさと悔しさで身を縮めるあたしを無視して、沼崎は残りのバスクチーズケーキへかぶりつく。
「あ~。本当だ。うまいや。このこってりさがいいよな。まったりっていうか、酸味との風合いが絶妙っていうか」
うまうま、と沼崎はバスクチーズケーキを平らげる。
……こいつ、なにがしたいんだ。
っていうか、とあたしはようやく我に返る。
「あんた、あたしが後ろにいるって知ってたんでしょ」
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