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「……てめぇ」
反論が来る前に友鳴は言葉を被せた。
「矢浪は俺の悪事を裁きたいんだろ?だったら過去は関係ない。大事なのは今、この瞬間のはずだ」
静かな怒りを持って矢浪を見る。
「ここにいない、ましてや生きてもいない人間の名前を出すな。不愉快だ」
ぴしゃりと水面を叩くように友鳴は言い放った。
過去との断絶。恩師の想いすら今の友鳴にとっては障害に等しい。
その事実を突きつけられ、矢浪の怒りは悲しみへと変わっていく。
もう後戻りは出来ない。戦う前に感じていた諦念はまだ可能性に過ぎなかったのだと、絶望を持って思い知らされた。
(俺はどうしたかったんだろう)
グレイスに対する友鳴の反逆。犯罪者とも手を組み、魔導書を横流して何も知らない一般人を危険に晒した。
友鳴の覚悟は決まっていた。道を踏み外しても自分が信じる正義を貫き通す覚悟を。
(迷ってたのは俺だったのか)
心のどこかで友鳴が心変わりしてくれるのを期待していたのかもしれない。だから今こうしてやり切れない思いで胸を締め付けられる。
話し合いでの懐柔はしないと、全力でぶん殴って目を覚まさせると決めていたのに。
どこまでも甘い。そんな体たらくではまた友鳴を取り逃す。
(他の誰かじゃない。今、俺がやるんだ)
すっと目が座る。
長年相手をし続けた友鳴はそれだけでスイッチが入ったことを悟った。
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