運命のふたり

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 中学二年の夏、今思い返してみたらあれが運命の出会いだったんだと思う。夏休みに入る二日前、下校途中だったあたしは『ミタケ』とすれ違った。細身に白と青のジャージを着て、肩にボストンバッグをかけた彼はこの世のものとは思えない美しさだった。青みがかったショートヘアはサラサラしていて、肌は陶器みたいにつるっとしている。瞳の色は髪と同じでちょっと青みがかった暗い色。駐車場で車に荷物を乗せるその瞬間に、一瞬だけ目があった。 「ナツ? ナツ?」  後で聞いた話だと、あたしが急に立ち止まって返事しなくなったから熱中症かなにかで動けなくなったんだと思った、とユキは笑いながら話していた。 「おーい、ナツ!」  肩をぶんぶんと揺らされてもあたしは返事ができなかった。駐車場からその男の子の乗る白いスポーツワゴンが交差点を曲がるまで雷に打たれたみたいにアスファルトの上で直立していた。運転していたのはたぶん彼のお母さんだったと思う。それから急に息ができるようになった。 「何あの人! 本当にあたしたちと同じ人間? 見た? あの肌!」 「どの人よ」 「さっき駐車場にいた、白いジャージの」 「ああ、あれ、ミタケでしょ」 「ミタケ?」 「うん、御岳広斗。知らない? このへんじゃ結構有名みたいだよ」  ユキはお姉ちゃんが言ってたんだけど、と前置きしたうえでミタケについて教えてくれた。年はあたしやユキと同じで、幼いときからずっとフィギュアスケートをやっているらしい。まだ全国的には無名だけど、この前の大会でいいセンいってたのと、そのルックスの良さから少しずつファンが増えていっているのだそうだ。 「練習、見れるのかな?」  とあたしが言うと、「そりゃ、選手だし、スケートリンクにいるんじゃないのかな、たぶん」と答えた。あたしがしばらくユキに熱い視線を送っていると、「え、うそ」とユキは露骨に嫌な顔をした。
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