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「ご飯おかわりしていい?」
「うん、勿論。いっぱい食べて」
小林の皿にはまだハンバーグが半分残っている。半分で茶碗一杯の米を食べてしまったようだ。気持ちの良い食べっぷりに、谷口の食も進む。ハンバーグを三分の二食べきった所で久しぶりに少しだけお代わりをした。
「小林くんは、一人で食べてて寂しくなったりしない?」
「うーん…家だと動画とかスマホ見ながら食べてる事が多いから、あんまり寂しくないかな」
「動画やスマホか」
谷口は苦笑いした。
妻が「ながら食べ」を嫌う人だったので、谷口自身も食事の時は自然とテレビなどを消す習慣がついている。無音が寂しい時はラジオをつけていた。谷口の表情を見て、小林は困ったように笑った。
「でも、最近は見てないよ」
「え…?」
「谷口さんが作ってくれた弁当を一緒に食べるようになってからかな。今まで一人で動画とか見ながら食べてても何とも思わなかったんだけどね。腹は膨れるんだけど、何か味気なくてさ」
谷口は驚き目を見開いた。
「昼が……谷口さんと弁当食うのが楽しみで待ち切れないんだ。こんな事言うと弁当作りのプレッシャーになるかなと思って言えなかったんだけどさ」
(ああ、駄目だ…)
谷口の涙腺が緩む。
「有り難う……」
「え?!あ、た、谷口さん?!」
泣かせてしまったと慌てふためく小林。
「ごめん、俺、何か…」
「違う、違うんだ…涙脆くてごめんね。歳かな」
泣きながら笑う谷口を見て、小林は安心したように微笑んだ。
「……聞いてくれる?」
「うん」
食後、片付けが終わった二人はマグカップに入れたお茶を手に向かい合った。
「妻を亡くして、毎月一回は必ず墓参りに行って、時々妻の実家にも顔を出したりしてるんだ」
「うん」
「妻は一人娘でね、妻の両親は僕の事も息子のように可愛がってくれた。今でも顔を出すと喜んで迎えてくれるんだけど…」
「けど?」
『娘は洋平くんと結婚して、本当に幸せだと言っていた。そして自分だけでなく、君が幸せである事が自分の幸せだとも。洋平くんはまだ若い。独りだと寂しい事もあるだろう。だからね、もしいい人がいたら……娘にも、そして私達にも遠慮しなくていいんだよ。私達は……娘の遺志を大切にしたいんだ』
谷口は、義両親からそう言われていた。
しかしその言葉を思い出す度、妻と同等に、いや、それ以上に愛せる人間はいないと自覚する事になり、胸が締め付けられた。
その言葉はたった一度言われたきりで、彼等自身の本当の気持ちは分からない。いや、谷口が何をどうしようと、きっと義両親は娘の遺志を大切にできればそれでいいのだろう。
それ以降も、妻の実家を訪れると義両親は今までと同じ様に喜んで彼を迎え入れてくれた。それが貴方の幸せならと。しかしその度に、谷口の胸が軋んだ。
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