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17 監視カメラ
神谷は家に監視カメラを付けていたと、行為のあとに、さも当たり前だというように悪びれもなくそう言った。仕事中も常にエルの行動をスマホから眺めて、癒されていたと言う。
それを聞いてエルは呆れた。
あくまでも監視するためではなく、神谷の仕事中の癒しのために見ていたというのも、どうかと思った。
神谷は会議が終わって一息つこうと、エルを愛でるためにカメラを起動しても、どの部屋にもエルはいなかったので、慌てて捜索隊を組んだとのことだった。
職権乱用もいいところ、そもそも内緒でいつも見られていたというのが、エルには気に食わなかった。
そうしたら神谷は、これからは正々堂々とエルの日常を見ると宣言した。見られたからって特に何かをしていたわけでもないので問題はないにしても、エルは腑に落ちないと怒った。エルだけではなく、日中は家政婦もこの部屋にいるのだから、それは犯罪だろうと怒ったら、神谷はしれっとした顔をした。
「沙織さんには、この家で仕事を始める前に伝えていたよ。一応、この家でなにか犯罪に巻き込まれることがあった時に、カメラは沙織さん自身も守るものになるし、お互いのためにも必要なことだと言って了承してもらっているよ」
「ふ――ん、沙織さんがそれでいいならいいけど、なんで俺にはそれ伝えないの? それこそ犯罪だろ!」
「ごめん、忘れていただけ」
「……絶対嘘だろ。毎日俺のことコソコソ見て、忘れているわけないだろ!」
神谷は、エルを抱きしめながら言った。
「愛してる、毎日愛しい番を見させて? お願い。そうしないと安心して仕事に行けないから」
「もう! なぁ? まさかトイレとか風呂にはついてないよな?」
「う、うん。ついてない……よ?」
神谷は目を泳がせた。その行動をエルは見逃さなかった。
「ふざけんな! 今すぐ取り外せ」
「……はい」
結果風呂にもカメラがあった。トイレはさすがに沙織も使うから、カメラはつけていないと言っていた。エルは、それを信じることにした。
「エル、エルの入浴シーンがもう見られないなんて耐えられない。これからは、僕と一緒に入る以外はだめ」
「は……!?」
「帰宅前に、車の中でエルのお風呂シーン見るのが日課だったの。それが無くなるんじゃ僕の生きがいが一つなくなっちゃう。だからこれからは僕が帰ってくるまでお風呂は禁止です」
理不尽なことを普通に話す神谷に、エルは再度呆れた。
「おい、お前、ふざけてんのか。当たり前の顔をして変態発言するな! それ、マジで犯罪だからな!」
「そんなことないよ、みんなヤッテルから。なんなら、ここのコンシェルジュなんて、休憩時間に合わせて、番にお風呂に入ってもらって、自慰させているよ。そうすることで休憩後の仕事も頑張れるって自慢していたよ? エルもさ、少しは協力的でも良くない!? 僕もエルのそういう姿、仕事中に見たら検挙率もっと上がると思うんだけどな?」
「……お前のせいで、この国は犯罪大国だよ」
この世界はやはりわからないと思ったエルだった。オメガもアルファを喜ばせるように、あえて恥ずかしいことをする。エルはこの先やっていけるか不安だったが、それからの日々もやはり平和な毎日だった。
平日はいつも通り過ごして……のルーティンの中に、平日も一緒にお風呂に入るが加わった。エルはもうお仕置きみたいなことをされたくなかったので、仕方なくそれに従った。
もとより仕事で頑張っている神谷よりも先に、ひとり風呂でくつろぐのは多少の罪悪感があったので、一緒に風呂に入るのはむしろいい行為だと思った。
自分はなにもせずにぬくぬくと生活させてもらっているのだから、風呂で神谷の背中を流すのは精神衛生上いいようだったとエルは思う。少しでも彼の癒しに繋がるなら、少しでも自分といることを心地いいと思ってもらえるなら、やはり嬉しいが先にきた。
ただやっかいなのは、自分が奉仕する以上に神谷がエルに奉仕したがるので、仕事している人に体まで洗わせるのは申し訳なかったが、神谷は入浴後には機嫌が良くなるのを見ると、それはそれでいいのか? と不思議に思うエルだった。
そんなことから帰宅してから一緒にお風呂に入り、その日あったことを話してから夕食。そして食後はだらだらと過ごし、夜は神谷に抱かれる。エルの体力が続かずに交わらずに寝る日もある、そんな穏やかな平日。そして週末はもう少し激し目な夜は、明け方まで続く。
エルはこういった穏やかな日々に、とてつもない安心感を得ていた。
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