1 目覚めると ※

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1 目覚めると ※

「痛いっ、あっ」  急にあらぬところが痛くて目が覚めた。 「ごめん……僕も余裕なくて。運命相手じゃラットが収まらないんだ。もう一度、()れさせて」 「え? あっ、ああっ、痛いっ、止め……」  え? なぜ尻がいたい? そう思ったすぐあとには快楽の波にのまれた。痛かったのが嘘のように体が熱くなり、自分からは聞いたこともないような嬌声がでる。 「そう、上手だね」 「んっ、んっ……、アッ、いゃっ」 「ねえ、噛んでもいいよね?」 「えっ、噛む?」  自分は今、何をして、誰としゃべっているのか全く状況がつかめていなかった。そして後ろから荒い息を吐いている人物、声のトーンから言って男。その人物が噛んでいいかと聞いている状況。自分が女みたいな嬌声を出していることに気が付いたと同時に、あらぬところに異物感を感じる。それだけではなく、その揺れと動きには、とてつもない快楽があった。  ――なんだ? この状況は? まさか、男に掘られている!?   男に後ろから犯されている。それだけは判断できた。顔も見えない男の男根は、後ろから容赦なく自分の後孔に入り込んでいた。 「ああっ……やめっ」 「やめられないよ。愛している、(つがい)になろう」 「つ、がい?」  後ろから激しくうだつ男が言っている内容が全く理解できないのもあるが、それよりも快楽が邪魔をして、会話など成立させることも難しい状況だった。 「あっ、あぁっ」 「そう、僕の運命。やっと会えた」 「ああっっっ――」  男は最奥に自分の子種を押し込むと、宣言通りに首筋を思いっきり噛んだ。  ――噛むって、こいつ、噛み殺すつもりか? 犯して、殺す、愉快犯? 変態? 俺、このまま男に犯されて死ぬのか……。  自分の取り巻く状況が全く見えずに、そしてなぜ尻で犯されていてここまで気持ちいいのかもわからずに、ただとてつもない快楽の中、殺されるのだということだけを悟った瞬間だった。 「っく、そんなに締め付けないで。これで僕たちは(つがい)になった。一生大事にするよ……あれ? 意識飛んじゃった? ごめんね。まだ止まれないから、今は快楽に身を任せて」 「んっ、んんっ、あああっ、ああっ」  ***   意識を取り戻すと、体のどこもかしこも痛かった。  体がきしむとはまさにこのことかと思った。自分は今、ベッドの上で寝ている。もちろん裸だった。先ほどの記憶からして、男に犯されていたのは理解した。だが、なぜ自分はまだ生きているのか。ふと首を触ると、そこは厚いガーゼで覆われていた。どうやら自分は噛み殺されてはいなかったようだ、手当をされている。  はて、ここはどこだ? そう思い、周りを見渡した。とても広くて解放感ある部屋は寝室なのだろう。部屋の窓からはレースのカーテン越しに光が入ってきている。今は朝? それとも昼なのか、時間の感覚もつかめてない。ぼうっと周りを見渡していると、部屋のドアがそっと開いた。  どんな男に犯されたのだろう。そしてこれからも犯されるのか、はたまた殺されるのか、何も考えが浮かばないまま、その開いたドアの先の人物を見て驚いた。 「目が覚めた? ちょっと激しくしすぎちゃったね。ヒートは収まったかな?」  自分みたいな男を犯すのは、醜いおやじ、腹がとてつもなく出ているおやじ、とにかく変な男を想像するくらいの余裕はあったのだが、予想を反して、そこにはとてつもない美男子がいたことに衝撃を受けた。  顔に合っていて低めなトーンで、セクシーさが際立つ男の声だった。年は三十代くらいだろうか、短めにカットされた髪は少しカールがきいた黒髪で、襟足はそり上げられていて今時の若者らしくお洒落で、それでいてとても清潔感があってさわやかだ。グレーのスウェットのパンツに白いTシャツ。高く通った鼻筋に、きりっとした目、高身長。どこからどう見ても、スタイルも抜群のイケメンだった。    ――なぜ、こんな男が俺なんかを? そもそも俺って……。  ここにきて状況もそうだが、自分自身についても不確かなことに気が付いた。そんなぽかんとした表情をしていると、その男はベッドに腰を掛けて、自分の顔をさらりと撫でて、ちゅっと軽くキスをした。 「えっ」 「ふふ、可愛いなぁ、僕の(つがい)は……。少しヒート落ち着いているみたいだから、今のうちにご飯にしよう。お風呂はもう寝ている間に終わらせといたから、次のヒートが来る前に少し話をしようか」 「ヒートって……」  この男の言っている内容が全くわからない。  ――ヒートってなんだ?   そして自分は無意識下で風呂までいれられたのか? 首の手当といい、風呂といい、飯まで用意しているだと? この男は自分を殺すのではなく、飼おうとしているのか。そう疑問に思っていると男は話を続けた。 「そうだね、そこからだよね。君は昨日ヒートを起こして、その香りに僕は君のところに導かれたんだ。それで運命だってわかった。君はそのまま気絶しちゃったから、家に連れてきたんだよ。君の荷物は何もなくて住所も名前もまだ知らない、教えてくれる?」 「……」 「ふふ、声枯れちゃって出ないかな? とりあえずアフターピル飲んでおこうか、このままじゃ妊娠確実だから。子供ができても構わないけど出会っていきなり妊娠もなんだし、もう少し二人の時間を味わいたいからね」 「……」 「あれ? もしかして子供すぐにでも欲しい? でも今回は諦めよう。二人きりの生活をしたいな」  ――妊娠、ツガイ、ヒート、運命、ア、アフターピルだ!?   並べられた単語の何一つ意味がわからない。女なら百歩譲ってもわからなくもないが、自分は男だ。記憶が曖昧だろうとも、男だということはわかる。そして見るからに男とわかる自分に、妊娠の心配をしている目の前の男が怖すぎる。もしや、頭のネジが壊れた変質者だろうか。  何も答えられずにいると、その男は断りもなく口に何か錠剤を押し込んできた。慌ててそれを吐き出そうとするも、すぐさま唇をふさがれ口移しのまま水を含まされた。あまりの速さに、そして状況のわからなさに、ゴクリと飲まされた水は薬ごと体に入ってきた。  男は薬を飲んだことを確認すると、また唇を奪ってきた。今度は舌まで入れて。 「んんっ、やめっ」 「やめられない。だって君からまたフェロモンが出てきたから、またヒートはいっちゃったね。もう一回しよう」 「えっ、あっ、はあっ、はっ」  ――体が熱いッ  この男が飲ませたものはアフターピルと言った。  言っている意味がわからなかったが、急に熱くなる不自然な体をみると、媚薬か何かなのだろう。妊娠とか子供とか、この男は頭が狂ったホモに違いないという結論に至った。だが、頭ではこの男を拒否しようとも体はどんどん熱を帯びていき、むしろ自分から腰を振り出していた。 「あっ、やだ、やめろっ、」 「説得力ないな、まだ触ってもないのにこんなに()って後ろもびちゃびちゃに漏れて、それに匂いもどんどん強くなっている。(つがい)の僕が欲しくて仕方ないんでしょ、話はまたあとにして、早く繋がろうね」 「あっ、あっ、ああ」 「ふっ、うっ、気持ちいい。運命はこんなにもっ! 愛してるよ」
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