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百合の弁明の言葉を張りのある声で遮り、パンパン!と勢いよく手を鳴らす麻由美さん。
その勢いに勝てる人は、このフロアにはいない。すぐに皆そそくさと自分のデスクへ戻り、それを見届けた麻由美さんは言葉を言えずもごもごしている百合の方を冷えた視線で見つめていた。その状況を見れるぐらいに回復してきた私は涙が止まっていたが、まだ呼吸が落ち着かないので陸斗に背中をさすってもらいながら状況を見つめた。泣いた後は、1キロマラソンをした後ぐらいに呼吸が乱れて、本当に困る。
「では、百合さん。私と陸斗さんと杏奈さんと共に会議室に行きましょうか。美夏さんは申し訳ありませんが、杏奈さんのデスクの片付けと予備のイスの準備をお願いします。やってくれたら、仕事をいくらか引き受けてあげますから」
「マジっすかぁ!?やったぁ……じゃなくて了解です!」
諸手を上げて喜ぼうとした美夏は、容赦のない冷たい視線を受けて慌ててピシッと姿勢を正し敬礼した。そんな美夏のおかげで、私は緩く笑う余裕が持てた。明るい友人が同じ職場にいるのは、本当に有難い。
***
会議室に移動してからは、早かった。
麻由美さんの指示通りに私と陸斗が並んで座り、陸斗の横に座ろうとした百合に無言で離れた席へ座るよう圧をかけた麻由美さんにより、陸斗に向かい合わせになるように百合が座った。けど結局、椅子をずらして陸斗の横に麻由美さんが座ることにより麻由美さんと百合が向き合う形となった。そうして座る場所が決まった瞬間、麻由美さんの怒涛の言葉により真実は全て明らかになった。
「さて、百合さん今日はやってくれましたね」
「私は何も」
「陸斗さんに用があったから百合さんだけをフロアに置いていったらまさか腹いせに杏奈さんの資料と椅子を濡らすなんて」
「私じゃな」
「ああちなみに言い逃れは無理ですよ。防犯カメラにばっちり映っている位置ですから。それに、貴女が十六茶のお茶を握りしめているのを見ていましたからね、私。他の人じゃ杏奈さんに意地悪する理由がありませんからね」
百合が言い訳する暇も与えない見事な完封だった。
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