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「なにこれ、え、これかなりヤバくない!?」
隣で同じ光景を見ている美夏は私のデスクへ駆け寄ると、茶色い水滴を滴らせる付箋のついた資料をつまみ上げた。
「うわ、やばい!やっぱり!この付箋お局のだよ!しかもよりによって水性で書いてるから何書かれてたかさっぱりだよ!うわー!最悪のダブルブッキングじゃん!」
美夏が大声で騒ぎ立てたので何事かと他の人たちがデスクを覗き込んでいた。その大勢の中でひょっこり顔を出してからすぐにさっと隠れた可愛らしいハーフアップの頭があった。間違いなく後輩の百合だとわかった私は眩暈がして額に掌を押しあてた。
十中八九、嫌がらせだろう。
これ以上嫌なことをしてほしくなかったら陸斗と別れろ、というメッセージなのだろう。というか、お茶が入っていたらしき空のペットボトルに「別れろ」という付箋が貼ってあるので一目瞭然だ。私の椅子を濡らしながら倒れているのがまた厄介過ぎて、流石にため息を我慢できなかった。というか、ちょっとじんわり涙腺にきてしまっていた。
本当にヤバイ。
付箋の貼ってある資料は『このまま会議に使う資料だから注意点は付箋で貼って置いておくわね』と、お昼休憩に出る前にそう声をかけられた大事な資料なのだ。お茶をぶっかけた犯人は恐らくそのことを知らなかったのだろうけれど、それでも人の仕事材料と椅子にお茶をかけるのはどこのクソガキかと問いただしたい。そして、この原因を作ったクソ野郎を一発殴りたい。
「え、何この騒ぎ」
ああ、クソ野郎だ。一発殴ってやる。いや、一発じゃ気が済まない。だって私はこれからお局に怒られないといけないし資料を1人で作り直さないといけないし、私が、私が――
「ああ……ごめん、きっと俺が原因だね。ごめん杏奈。俺が全部なんとかするから。ほら、おいで」
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