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03:絶望と渇望
何処をどう歩いたのか。
あの地獄の日から何日が経ったのか。それすら分からない。2日か?3日か?
「どうでもいっか」
もう、どうでも……いい。
死のう。
全てを失った。全てだ。親友に裏切られて研究成果を持ち逃げされ、妻もいなくなった。
両者が無関係だとは思えない。この二人は共謀してたんだ。きっと今頃は俺を笑っているんだ。そう思うと無性に心が軋みをあげた。
今頃、あの二人は温かいベッドの上だろうか?
暖かな暖炉の前だろうか?
そこで愛を育んでいるのだろうか?
吐き気がこみ上げてくる。気がつけば吐いていた。でもここ数日は何も食べていない。だから胃液しかでてこない。
「……」
雪が降っている。結構な量だ。灰色の雲の隙間から雪が降っている。
ふわふわと。
俺は雪に足を取られて転んでしまった。しかしもう受け身を取る気力すらない。ドシャッと頭から地面に倒れた。その際に強かに顔をぶつけた。
痛いような気がする。
血が流れているようだ。額を切ったか?
だが、どうでもいい。
もういい。
もう……終わったんだ。
俺は静かに目を閉じた。
※
※
※
夢を見た。日本という見たことも聞いたこともない国で生きた男の夢。羨ましいな。家族に囲まれ幸せそうにしている。仕事も趣味も充実しているようだ。
なんだ。コイツは。
はは。
俺とは正反対だ。
見ろよ。俺を。こんな酷い姿なんだぜ?
だが、まぁいい。
最後の最後に見た夢が、この幸せそうな男の夢なら悪くない。最後ぐらい。夢の中ぐらい幸せでも良いよな?
しかし風景が突然変わった。その男の人生が突然、闇に飲み込まれたのだ。
何があった。
何が起きた?
男が泣いている。
喚いている。
人を罵倒している。仕事仲間を。妻を。家族を罵倒している。
あぁ……そうか。
お前もか。
お前も俺と同じなのか。
男の死に際が見える。
電車と呼ばれる乗り物に飛び込む映像。
その一瞬。わずかな時間。男は確かに言った。
「来世は幸せになりますように」
ごめんよ。
お前は来世でも同じ運命をたどるんだ。
幸せにはなれないんだよ。
そういう運命らしい。
そう思った瞬間。男の中で何かが切れた。
「なんで。こんな目にばかり会うんだ? 何で俺ばかりこんな目にあってんだ?」
おかしいだろ。
変だろ。なぁ! おかしいだろ!
何がいけないんだ!
確かに妻には寂しい思いをさせたが、でもこんな裏切り方はないだろ!
なぁ!
冷え切った胸に熱が灯った。熱い熱い激情が胸で渦巻いている。
「許さない。どいつもこいつも許さない!」
俺の魂が強く。熱く。生きることを望み始めた。それに呼応するように体から熱が溢れ出す。復讐してやる……俺は、絶対に。あの二人を許さない!
ピクリと指が動いた。
次に腕が動いた。
体が動く。
足が動く。
頭が回転を始めた。
死ねない。
まだ死ねない。
奴等に絶望を味あわせるまでは!
力は漲っているが、いかんせんエネルギー切れだ。ふらふらと体が飲み物と食べ物を求めている。
俺は、とりあえず目に入った酒場に入ったのだった。
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