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6
長い休みを取らせてほしい。
そう告げると、店長は「分かったよ」とカレンダーを引っ張り出してきた。
「どのくらいかな? 三か月? 半年? 一年?」
「半年……って、店長。いいんですか」
「言ったじゃないか。休みはいつでも取って良いって。なんだい、心配しなくても君の部屋はちゃんと掃除しておいてやるよ」
「……ありがとうございます」
「ふるさとに帰るのかい」
「はい。今更、追い返されるかもしれませんが」
「君は、それでもめげなさそうだ」
店長は苦笑する。なおも逃げるのか、とは一言も口に出さずに。
罪の自覚がありながら、受けるべき罰を受けずにいる―それは事実で、何の言い訳もできない。立証が難しいだとかジャスパーの顔が利くからだとか、甘ったれた言い訳を並べたてて逃げ出すのだ。
北の町へ戻り、かつて作ったものを確認するのが里帰りの目的だった。今では違法品扱いとなる作品を残してきたが、それらがどんな状態にあるのかを自分の目で確かめたかった。
また町には、今でも古くからのやり方で作品を生み出している仲間が数多くいる。都落ちだ、落伍者だと罵られても構わなかった。彼らに伝えられる技術や情報を伝えたかった。彼らが自分と同じ目に遭う前に、出来ることをしたかった。然るべき罰を受けるのは、それからでも遅くはないのではないか―未練がましく、そう考えていた。
リンの民のうろこに限らず。昔から心惹かれ、馴染んできたものが手に入らなくなる日はそう遠くないうちに来るだろう。
最後まで抗うように、それらを使い続けるのか。もしくは頼ることなく、新しい作品を生み出すことができるのか。
いずれにせよ、俺は美しいと思えるものを作り続けていく。揺れ、惑っても戻って来られる道を、作り続けていく。
何をしたところで罪が軽くなるとは到底思えないし、軽くするつもりもない。
自分が作ってきた全てを見つめ直し清算するための、これは第一歩に過ぎなかった。
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