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 現金が入った封筒を受け取り、黒髪を休憩用の椅子に座らせる。  聞いたことがない名前だと店長が言っていた店は、先日ジャスパーを迎えに行ったあの店とその系列店だった。使い走りの黒髪の客―シラーは半袖のシャツとジーンズという出で立ちだ。店での格好とはまるで異なるが中性的な雰囲気は変わらない。  接客や会計に追われている店長に代わって応対したものの、何とも気まずい。働いているところを見られている気まずさと、もう一つ別の気まずさが汗のように身体中にまとわりついている。  姿を消したと言われているリンの民。その一族の生き残りがシラーだと。  言葉は真実か、場を盛り上げるための嘘か。判断しかねるからこそ思ってしまう。  オパールのような美しい光沢を持つといううろこを、一目見ることはできないだろうか。  もしも。法や倫理も全て無視して、手に入れられるなら― 「お兄さん。今日の夜空いてる? って聞いてんだけど」  シャツの裾を引かれて我に返った。 「―予定はないが、あの店にはもう」 「違うって。私もこれを届けたら休みなんだ。一緒にご飯食べようよ。話したいことがあって、そんだけ」 「…………場所は。駅前の屋台通りあたりか」 「いいね。賛成」  精算を済ませ、シラーが乗ってきたという二輪車にリカーケースを固定させる。瓶を割らないかと訊くと、運転は得意だと不機嫌そうに返された。彼の髪は、陽の下で見ると青色にも緑色にも見えた。  話したいこととは何なのか見当はつかなかったが、あわよくばこの目で、せめて情報だけでもと期待する自分がいた。下心をもって食事の誘いに乗るなど、ついぞ考えたこともなかったのに。  しかし今は、予想以上の客入りに狼狽している店長の手助けをしなければ。疑問を頭の隅に投げやり、店内へと戻った。
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