廃トンネル

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「まったく、何が悲しゅうて……」 「まあ、川西君よ。それは言わない約束だろ?」 「よりにもよって野郎四人で心スポ突撃とはなあ。色気も何もあったもんじゃねえ」 「まあ、確かにそれはそうだな。大体、坪井が突然『そうだ。なあ、心霊スポット行かねえか?』とか言い出すからだぜ」 「なんだよ、俺一人が悪いみたいによお。おめえらだって退屈してたじゃんか。暇だなあとか三分に一回ぼやいてたのは梶本、おめえだろうが」 「まあ、そりゃ確かにそうだが。それにしても野郎ばかりだといまいち盛り上がらんな」 「今更文句言うな。文句あるなら対案出してみろってんだ」 「まあまあ。確かに坪井の言うのも尤もだ。もう、折角ここまで来たんだから、楽しんでいこうぜ」 「そうだよな。さすが、古川先生は人格者だ」 「本当だよな。車まで出してくれて有り難う」 「お、ぼちぼち見えてきたぞ」 「どこよ?あ、あれか!」 「そう、あのアーチ状の入り口が視えて来ただろう。あれが、旧Yトンネルの入り口だ」 「とっくの昔に廃止されたのに、入り口も出口もずっと開きっぱなしなんだよな」 「入り口の前で車を止めて、中に歩いて入る。そんなに長いトンネルじゃないらしいから、まあ、入って一旦向こう側の出口まで出てから、Uターンして車のところまで引き返す。大体そんな段取りだな」 「なんか……いざとなると緊張するな」 「なんだ、坪井、お前意外にビビリなんだな」 「そうだよ、大体お前が言い出したんだろ」 「だって……あの入り口、いかにも真っ暗じゃん」 「うん、漆黒の闇ってやつだな」 「ブラックホールってあんな感じなのかな。いかにも入ったら二度と出られなさそうな……」 「うーん、いいねえ。いかにもだねえ」 「よし。それじゃあ、今から入るぞ」 「ちょっと待て」 「なによ?」 「順番どうしよう」 「は?」 「……順番ったって」 「そんなの四人で固まって行きゃいいんじゃね?」 「でも、やっぱ、普通一列になって歩いていくもんじゃねえの?」 「そうすると、やっぱり順番決めなきゃまずいだろう」 「決めなきゃ歩けないってわけでもないと思うが」 「わかった、わかった。じゃんけんで決めよう」 「じゃ、負けたやつが、トップになる。そして、トップが2番目を指名する。そして2番目が3番手を指名する。これですぐ決まるだろう」 「なるほどな。じゃあさ、そんならもう俺がトップやるよ」 「え?いいの?坪井」 「おう、なんか俺が責任あるみたいな意見もあるみたいだし、そんなら責任とってやるよ」 「いや、根に持たれても。さっきのは軽い気持ちだったんだから」 「坪井、本当に大丈夫なのか?やせ我慢じゃねえの?」 「まあ、坪井がそういうならそれで行こう。じゃ、坪井、2番手は誰にする?」 「じゃあ、古川」 「オッケー。で、俺が3番手を指名するんだな?じゃ、梶本君、よろしく」 「了解。で、しんがりは自動的に川西だな」 「……なんか、”しんがり”って言われるとあらためて嫌な感じだなあ」 「なんでだよ」 「だって、いかにも最後尾って感じだろう。要は後ろに誰もいないんだぜ。それって怖いじゃん」 「いやいや、誰か”ついて”いてくれるかもよ……」 「やめろよ、もう!」 「よし、それじゃあ行くか」 「結局何にもなかったな」 「拍子抜けもいいとこだぜ」 「確かに真っ暗だったけど、何の声も音も聞こえなかったし」 「無事にトンネル通過して、Uターンして帰ってきただけだよな」 「そもそもさ、このトンネル、心霊スポットって言われてるけど、どういう謂われだったっけ?」 「たしか、もともとこのトンネルを建設する時に沢山の人が亡くなった。その人達の霊がいまだに何人もさまよっていて、このトンネルに生きた人間が入ると、必ず一人が行方不明になる、みたいな話じゃなかったっけ?さまよう霊が仲間をふやそうと一人を引きずり込んじまうってことらしい」 「ふーん。て言ったって、俺たち何も起きてないじゃん」 「そんな劇的な展開があったら、来た甲斐もあったのにな、はは」 「さて、帰るとするか。じゃあ、まず坪井ん家(ち)行って、次が梶本ん所ってことでいいな?」 「うん、それが一番いい。川西、車出してくれて有り難うな」 「いやいや。まあ、何も起きなかったけど、ドライブとしては、なんだか楽しかったよ」 「……あれ?……そういえば古川って……」 「ん?」 「古川?誰それ?」 「え?古川って言ったらあの……だって、今日は古川の車で来た……あれ?」 「おい、坪井、何むにゃむにゃ言ってんの?今日は俺たち三人、川西の車で来たんじゃないか」 「それに古川って誰だよ?お前の友達?」 「古川って……古川……あれ?……誰だっけ……」 「おいおい、坪井。しっかりしてくれよ」 「いくら何でも、まだボケるには俺たち若すぎるだろう、ははは」 [了]
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