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鼻歌まじりに素麺にサラダを乗せて、錦糸卵なんか作っても仕方ないから炒り卵を載せる。
これからの楽しみの為に夕食をサッと済ましてしまおう。
シャワーも浴びて、すっかり寛ぐ用意をして、いつもの位置で映画が始まるのを待つ。
しかし今日に限っては、いくら待っても始まる様子がない。
今日は映画見ないのかな?
気がつくと、ほろ酔いで、壁にもたれて、少し意識がとんでいた。
十一時をまわっている。
シーリングライトのタイマーのせいで部屋は真っ暗だ。
あ、壁越しに音が聞こえる。
やっと今日の映画が始まったようだ。
和製映画なのか、悲鳴の質が海外映画とは違う。
珍しいな、と思いながらうとうと舟を漕ぐ。
鋭い女性の悲鳴が続き、複数の男性の声、なんだか悲鳴が多めだ。
女性の悲鳴が高くなってきたあたりで、隣人は音量を下げたようだ。
小さくなった音を追って思わず壁に耳をつけてみる。
耳をすますと、悲鳴はまだ続いているようだ。
絶叫系パニックゾンビかな?
いや、違う。
悲鳴の質が恐怖のそれではなくなっている。
これは…… 喘ぎ声だ!
ふぅん、今日のゾンビはAV風味だったのか…… 。
壁にソファかベッドを寄せてあるのか、壁に耳をつけたお陰で、映画の音以外も拾えてしまう。
小刻みな振動が壁越しに鼓膜を震わせる。
それどころか、映画の音量を抑えた為に彼の、んっ、とか、あっ、とか抑え気味な喘ぎ声まで拾えてしまう。
こ、これは、盗み聞いてはいけない類の音を聞いてしまっているのでは?
いや、これに限らず盗聴はいけない事だが。
隣の部屋の私が寝静まるのを待ってのお楽しみタイムだったのだろうが、夜のお供までゾンビだなんて、衝撃的だ。
色気を孕んだ声をあげて家具が微かに軋む。
耳を壁から離せないまま、隣人と映画はクライマックスを迎える。
壁にドスンと振動が来て、行為が済んだことがわかる。
余韻を残した荒い息も聞こえる。
私の心臓は興奮で早鐘を叩いたようにバクバクと鳴っている。
……ヤケに、いい声だったな。
私は淫夢に襲われて、朝の講義に遅刻した。
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