おまわりさんと自由研究

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「あ、悪いことしたことあります、ぼく!えっとね、この間ね、人様の家のポストに……勝手に折り紙入れちゃった!」 「そ、そうなんだ……」 「あと、高橋くんの家のピンポン押して逃げたし、先生に“廊下走っちゃダメ”って言われてるのに廊下走ったよ!」 「そ、それで?」 「あとね、あとね!お母さんが“コーヒーにお砂糖は角砂糖三個までだよ”って言ってたのにこっそり五個も入れて飲んじゃったー!」 「そ、そっか……」 「それから……あ、そうだ!この間、計算ドリルやれって言われたのにやらないで学校に行った!あと、テストで初めて七十点取っちゃった!いっぱい間違えた!ぼく結構悪い事してるでしょ!ねえねえ、逮捕してもらえる?」 「…………」  無理です。  僕はカウンターに突っ伏したくなった。その程度のことを“犯罪級の悪い事”だと思ってる時点でもう、純粋すぎて気が遠くなりそうである。頼むから一生、汚い大人の社会とか恐ろしい犯罪と無縁でいてくれと思ってしまう。  むしろ、悪い大人に騙されて誘拐でもされないか気が気でしかたない。大丈夫なのか、この純粋培養の少年は!小学校三年生の男の子ってこんなに無邪気なものだっただろうか。それとも、この子が特別心が綺麗なだけなのか。 「……あのね、勇気くん。小説を書くのはいいと思うんだけど、いきなり刑務所の話は難しいんじゃないかな?」  どうにか僕が絞り出したのはそれだった。 「どんな凄い作家でも、最初は自分がよく知ってることをテーマに書くものだよ。例えば君は小学生だから、小学生を主人公にした話にするんじゃ駄目なの?小学校で起きる怖い話とか、恋愛とか、不思議な能力を持った子供達のクラブとかそういうのさ」 「……駄目じゃないけど、なんかカッコ悪くないですか?子供が主人公の話って、大人も読むの?」 「読むよ。僕は、今でも少年探偵団みたいな話大好きだからね。でもって、小学生のことを一番よく知っているのは小学生だと思うんだ。むしろ、小学生である君にしか書けない話があるんじゃないかな。この時期に、そういう話を書かないのはもったいないと思うんだけど。大人を主人公にする話は、大人になってからいくらでも書けるんだから」  それは、心からの本心だった。単純な精神年齢とか、そういう問題だけではないのだ。子供の時の気持ちや、子供の時の視線、子供の時の興味。そういうものは、やっぱり子供であればこそ分かっていることも少なくない。大人になったら忘れてしまうことや、見失ってしまうことがたくさんあるのである。  だったら、それを忘れてしまう前に、その時のまっすぐな気持ちを小説にしておかなければ勿体ないではないか。
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