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「スナック・マリ」からの帰り道、航太が眠そうな顔で「とうちゃん、おんぶ」とせがんでくる。つないだ手がホカホカと温かい。眠たい証拠だ。そういえば小学生になって体力もついて、帰り道にぐずることもなくなっていたなあ。文幸は懐かしい気持ちになる。航太が小さいころは、一日遊んだ帰り道に眠たすぎてギャン泣きされたり、不機嫌な顔で道ばたに寝転がられて手を焼いたものだ。
文幸は「ほら、乗んな」としゃがんでやった。
ずしっと航太が背中に乗ってくる。
「航太、運動会がんばったな」
「うん」
「写真、いっぱい撮ったよ。悠くんパパが動画も撮ってくれた。航太のかけっこ、かっこよくて感動しちゃったよ」
「かけっこじゃなくて、ときょうそう、ね」
「ああそっか、徒競走だね。ごめんごめん」
もう子ども扱いするな、と言わんばかりのリアクションが微笑ましい。文幸がクスクス笑っていると、航太がふいに背中に鼻を押しつけてきた。クンクンと匂いを嗅いで不思議そうな声を出す。
「なんかとうちゃん、いい匂いがするね」
「えっ」
「これ、シャンプーの匂い? どこかでお風呂に入ってきたの?」
文幸は慌てた。慌てたが、平気を装って返事をする。
「悠くんのおばあちゃんのお店に行く前に、とうちゃんと航太で一緒に風呂に入ったからだろ」
「えー? なんかいつもと違う匂いがするよ。なんかねえ、悠くんと同じ匂いがする」
「そ、そうかな。気のせいだよ」
まいったなあ。
文幸はドキドキしながら足を速める。
「最終話の前に:もうひとつの親子の会話」につづく
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