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家に帰り着いてすぐに夕飯の支度にとりかかった。航太を迎えにいくまでにご飯は炊いておいたから、あとは牛丼の具を煮るだけ。航太の好きな豆腐と油揚げの味噌汁も作っておいた。こんなふうに時間の融通が利くのが、フリーランス稼業のいいところだ。
「こらっ、ポケモンはやることが全部終わってからっていつも言ってるだろ」
「えーっ、いいじゃん、ちょっとだけ。ごはんができるまででいいからさぁ」
「ダメです。お風呂のスイッチを押してきてください。それが終わったら明日の準備をしましょう」
「ぶぅ」
文幸は台所から、リビングでゲーム機に飛びついている航太に小言を言う。航太はぶうたれながらも風呂に湯を張りにいってくれた。
鍋を火にかけながら、ぼんやりと考えごとをした。
航太のクラスメイトの、父子家庭だという子のお父さんはどうして離婚したんだろう。どうしてお母さんが親権を持たなかったんだろう。お母さんの浮気とかかな。
「……ねえ、とうちゃん。とうちゃんってば!」
航太の声がしてハッと我に返った。台所までやってきた航太がプリントを差し出してくる。
「宿題、マルつけして」
「うん。わかった」
「ちゃんと学童で、宿題、終わらせてきたよ」
「えらいじゃん。とうちゃんも助かる。ごはんを食べたらマルつけするね」
文幸は急いで鍋の火を止めて、どんぶり飯の上に牛丼の具を載せた。ふたりで食卓を囲む。牛丼と味噌汁のほかの献立は、パックの納豆と、レタスとトマトのサラダ。サラダは航太は食べてくれないから、もう「お供えもの」の気持ち。学校でのできごとを楽しそうに話してくれる航太に相槌をうちながら、文幸はまた考え事をした。
離婚して楽になったこともいっぱいあった。
ガスコンロにちょっとぐらい油がはねていても、シンクに鍋や皿を置きっぱなしにしても、誰にも何も言われない。部屋干しの洗濯物を取り込まないでいても平気。金曜の夜なんかに息子とネットの動画を見ながら、ソファでだらしなくうたたねしても、文句を言う人はいない。航太もめったなことでは熱を出さなくなった。丈夫に、たくましく育ってくれている。
「なんかさー、とうちゃん、嬉しそうだね」
航太が笑い声をあげる。航太の口から勢いよく米粒が飛んできたので、文幸は顔をしかめた。
「しゃべるか食べるかどっちかにしろ」
「仕事がうまくいってるの?」
「うーん、まあ、それもそうだけど、航太がりっぱな小学生になってうれしいんだよ」
「そっか。あのさあ、ママとりこんしてよかった?」
「……」
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