最終話・誓う:音楽会

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 四人は「スナック・マリ」に夕食を食べに行く。この日は常連客もたくさん来ていて、航太と悠はポケモンの対戦ゲームで大盛り上がりだ。今日は少しだけ夜更かししてもいいことになっていて、息子たちはマリばあのうちに泊まりにいく予定。  楽しそうな様子を確認して、文幸と周は店を抜け出した。 ◆  部屋の照明を消すかどうかは、抱かれるほうが決めるルール。この日、文幸の寝室は明るかった。周が「明るいほうが興奮する」と言うから、しかたなく。文幸は恥ずかしいのを我慢する。  周の指先が、文幸の髪をそっとかきあげた。長い指ですうっと梳かれて、その色気に文幸はぞくぞくっと鳥肌をたててしまう。周の身体に収めた自分のものが、ぐっと膨張する。周が「はぁっ」と切なそうに喘いだ。 「俺ね、文幸くんのおろした髪、大好き」 「……周さん、痛くないですか」 「全然平気。文幸くん、敬語になってる」 「あっ。……ごめん。つい」  身体を重ねているときは、文幸は敬語をつかってはいけないことになっている。これも周がそう決めた。  こうしてふたりきりで過ごせるのは明日の昼まで。長いようで短い。文幸と周は時間を惜しむように互いの身体をむさぼりあう。 「文幸くんの髪を触ってると欲情する。いつものマンバンもいいけど、こうしておろすとギャップ萌えがすぎるよね」 「そ、そうかな」 「うん。他の奴には見せないでね」 「……見せないよ」 「んう、気持ちいい」  文幸の腕のなかで周が満足そうに喉をそらす。文幸はそこに甘く嚙みついた。これは周が好きなプレイ。文幸が周を抱くときは、いつも喉や首すじを噛んでほしいとせがまれる。周の喉仏を舌で探っていたら、さらに周の後ろが締まるのがわかる。 「ちょっと、あの……周さん。締めすぎ」 「ごめん」 「痛い。でも、気持ちいいから、いい」 「うん、気持ちいいね」  文幸はそっと腰を揺すった。あんまり夢中にならないように、制御しながらゆっくりと。抱くときも、抱かれるときも、セックスのときはいつも文幸が少し先に達ってしまう。それは文幸の小さな悩みのタネでもある。周は「気にしなくていいよ」と言ってくれるけど、自分が抱くときは、なるべく周に満足してもらってから達きたい。できれば同時に。だからいま、文幸はかなり自分の欲望をこらえている。 「文幸くん、またがまんしてるでしょ」 「……してないっ」 「俺のことは気にしなくていいのに。こうして文幸くんに入れてもらうのが気持ちいいから、俺は達かなくても別にいいんだよ」  周はいつもこうして文幸のことを甘やかす。  文幸も周に甘やかされっぱなしだ。 「やだっ。周さんと一緒に達きたいのっ」 「ふふっ、かわいいね」 「周さん、大好き」 「うん。俺も文幸くんのことが大好き」  やっぱり文幸は我慢できなかった。到達点が見えたら理性などどこかへ飛んでいってしまう。でもこの日は、文幸が気持ちよく達ったすぐあとに周も達った。いっそうきつく締まる周の後ろが気持ちよくて、文幸は名残惜しい。快感の波がひいてしまうまで、いつまでも腰をとろとろ揺するのをやめられない。周もそれを許してくれる。  満足して文幸が身体を離そうとすると、周の腕が絡みついてきてキスされた。  終わったあとの「大好き」のキス。  文幸も周の身体を抱きしめた。
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