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庭師とお嬢様
今の時代に、まるでどこか別の国にいるようなお嬢様がいた。
資産家で、格式高くて。
――そしてどこより、時代遅れ。
時代遅れだと思っているのに抜け出せないどころか、俺はただこの家を回す歯車の一部。
「何か考え事?」
「……いえ、お嬢様。それよりこんなところに来られてはいけません。既に整備の終わった庭園もあるでしょう」
「私はお前がいるここがいいのです」
ふわりとまるで花が綻ぶように笑うお嬢様は、俺にとってはまさにお姫様で。
“可愛い”
孤児の俺を引き取りこの年まで育ててくれた旦那様。
与えられた庭師の仕事は夏に厳しく冬は辛かったけれど、そんな旦那様に報いることが出来るならと精一杯取り組んだ。
「――まるで魔法みたいだわ。お前の手にかかるとすぐに美しい庭になるんだもの」
「ありがとうございます」
愛おしそうに見つめるお嬢様のその視線が、手入れした花にだけ向けられている訳ではないのだと俺は知っていて。
そしてそんな視線が嬉しいと俺の鼓動を高鳴らせた。
“だから絶対こんな想いは悟られてはいけないんだ”
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