庭師とお嬢様

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 この家のお嬢様は、俺にとって世界で一番大切なお姫様だったから。  穏やかな日常。  こんな日々がいつまでも続くわけがないと知っていながら、こんな日々がいつまでも続いて欲しいとおこがましいとわかっていながら切実に願っていた。  ――そう、ちゃんと俺は知っていたのに。 「お嬢様の結婚が決まったらしいぞ」  使用人の集まる食堂で、ガチャンと大きな音を立てて俺の持っていたお盆が落ちる。  足元に夕飯と割れた食器が散らばったが、そんなこと気にしてはいられなくて。 「今の話、どういうことですか!」  そのままその話をしていた先輩に掴みかかる勢いで詰め寄った。   「たまたま今日話してるのを聞いたんだ、ほら、お嬢様も成人だろ? 確かに世間の結婚適齢期より早いけどな」 「早すぎるだろ!」 「んなこと俺に言われてもなぁ」  俺の勢いにたじろぎつつも、途中で何かを察したらしい先輩は少しだけニヤッと笑って。 「あぁ、お前お嬢様と同い年の幼馴染みだったな。確かにあんなに美しかったらそら惚れもするわなぁ」 「べ、別に俺は……!」
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