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「まぁでも身分が違いすぎる。憧れは憧れで終わらせるのが一番だぞ」
“わかってるよ”
身分が違いすぎることも、俺ではお嬢様を幸せに出来ないことも全部全部わかっている。
どうすることも出来ないこの想いは、当然どうすることも出来ないまま時間だけが過ぎた、そんな時だった。
「私はお前が好きなのです」
「ッ」
与えられた日常をこなしていた俺の背中に、お嬢様の熱を感じてギシリと固まる。
「……私の結婚が決まった話は知っていますか」
掠れたようなお嬢様の声が聞こえ、そっと頷く。
「お相手は加賀美製薬の御曹司です」
“大企業……!”
俺とは余りにも身分が違い、そしてお嬢様と釣り合いが取れていて。
「私と同じ気持ちなら、私を拐ってくれませんか」
囁くように、そして誘惑するように告げられる言葉。
「お前にも貧乏を強いてしまうかもしれませんが、それでも……っ」
“俺がお嬢様を拐う?”
この白くて細い手を握り、自分で整備したこの美しい庭を彼女と一緒に駆け抜けて。
そして知り合いの誰もいない場所でひっそりと二人だけの生活を始める?
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