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お嬢様が望んでくれるなら、俺を育ててくれた旦那様の信頼を全て失ってもいいと、恩を仇で返す結果になっても構わないと思うほど恋い焦がれていて。
「あと二日か」
待ち遠しくて堪らない。
もう今すぐにでも拐ってしまいたくて、俺はその日の仕事が終わった後に少しずつ荷物を準備し始めた。
更にその翌日。
いつものように仕事をし、伸びた枝を切ろうと梯子に上る。
いつもより視線が高くなったからだろう、見知らぬ車が玄関近くに停車していることに気が付いた。
“もしかして”
嫌な予感は当たるもの。
思わず走り出したその先に、お嬢様と青年が俺の作り上げた庭園を並んで歩いていて。
「あの男が、お嬢様の婚約者……」
スラリと背が高く、けれどひょろくは見えない。
顔は整い、少し明るめに染めた髪色から遊んでいそうに見えたが、お嬢様を見つめるその視線が余りにも柔らかかったのが印象に残った。
“本当に遊び人ならいいのに”
そうすれば、俺はそんな男からお嬢様を救うという大義名分のもと、拐うことが出来るのに。
並んで歩くその姿が余りにもお似合いだったからだろうか。
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