庭師とお嬢様

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 俺は薄汚れた作業着に視線を落とし、そしてすぐに持ち場へ戻った。 「少しお話いいですか」 「!」  それから何時間たったのかはわからない。  まるで見た光景を忘れるように仕事に没頭していた俺に声をかけてきたのは、よりにもよってその男。 「……なにか?」  思わずつっけんどんな態度をとってしまうが、そんな俺の態度を気にもしていない様子でにこりと微笑む。 “そんなところも憎らしい”  苛立ちだけは悟られないように気をつけつつ、その男の前に向き合うように立つと何故か突然頭を下げられてギョッとする。 「な、何を」 「貴方が彼女の大事な人だと知っています」 「!」  男の言葉にドクンと心臓が跳ねる。 「それは、お嬢様が?」 「……いえ、彼女は何も。けれど話のほとんどは貴方の話でした」  言いながら、少し寂しそうな表情でふっと笑ったその男は、更に言葉を重ねるべく口を開いて。 「けれど俺も、ずっと彼女が好きだったんです」 「……は?」 「諦められなくて、告白しました。家に結婚の申し込みを入れたのも俺です」 “こいつも、ずっとお嬢様のことを?”  それはまさに青天の霹靂。
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