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――手を差し伸べるだけで良かったのだ。
お嬢様の手を取り走り出せば。
あの男の手を握り真っ直ぐ見つめ返せれば。
そのどちらも出来なかった俺は、せめてこれからの二人の背中を押す。
「これは俺から贈れる最大の想いだから」
二人が今どんな会話をしているのかはわからない。
けれど約束の場所に俺ではなくあの男が現れたことできっと聡いお嬢様なら全てを察してくれるだろう。
「幸せになってください、俺はここで応援しています」
俺の心をじわじわと侵食するこの想いは、きっと貴女の未来を輝かせるから。
今はフラれた痛みで泣くだろうけれど、貴女を抱き締めるのは俺の役目じゃない。
「本当はずっと、誰よりも愛していました」
誰にも届かないこの木の影で、俺はぽつりと呪いの言葉を吐いて消えた。
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