うつ

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うつ

「ハルちゃんは、ほんとうに可愛いね」  ハルカちゃんとして産まれた私は、あだ名のために名前の一文字をどこかに落っことしたようだ。  幼稚園の先生。  私はありがとうのつもりで、思いっきり口の端っこを上げて、にっこり笑った。  すると、先生はもっと喜ぶのだ。「かわいい~!」って言って、私のほっぺを両手で挟み込むのだ。それが私と先生の、朝の挨拶。 「お姫様、だね」  挟まれた両手からは、よくわからない花の匂いがした。ハンドクリームというやつだろう。
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