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柳川さんの放った言葉の意味が理解できず、頭の中で一字一句ゆっくり反復した。
理解が次第に追いつくと、とたんに頭に血が上る。
「鯉を病院に連れて行っただけでお給料を上げてくださるとは、とても優しいお方ですね」
暗く陰る銀色の瞳に、負けじと視線を合わせた。
「そんな優しい方だとは大変驚きました。でもご厚意はいりません。その代わり明日、柳川さんの許可なく病院に連れて行かせてもらいますね。もちろん家政婦の基本業務はきっちりやった上で、です」
眉を吊り上げながら、にっこりと笑っている私。箸を持つ手が怒りで震えるのを、鎮めるのが大変だった。
元々悪印象だった柳川さん。最初自分が抱いた印象は、決して間違いなんかじゃなかった。ご飯を美味しくいただくために、前を見ず料理だけを見て黙々と食べた。
「ご馳走様でした」
食終わりの挨拶も、顔を見ないように目を閉じながら言う。
そう、私は腹立たしさで、全然冷静じゃなかったのだ。
ー・・・ガシャーン
テーブルの食器を片していた時、一点モノの笠間焼の皿を二枚床に落とした。
“家政婦の基本業務はきっちりやる”
先程自分が放った言葉を、数十分後に反故にする。
(さすがに、どうしようもないくらい酷い)
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