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十八時の早めの夕ご飯はうどんを茹で、すだちを絞り醤油をかけていただく。おかずは日中に買った旬のセロリを、アボカドと一緒にわさび醤油で和えたもの。
「いただきます」
手を合わせてゆっくり咀嚼した。食材の味、食感を隅々まで味わうように。
『食べ物に感謝しなさい』
祖母がふくふくと笑いながら言っていた台詞が胸に刻まれている。口の中でセロリが、シャキシャキと音を立てた。
アイロンで巻いた髪をサイドで一つにまとめワックスで固める。黒のクロップドパンツに黒のシフォンブラウスを着て、スナックみさきに出勤した。
「果穂ちゃんおはよう」
夜だけれど仕事始まりだから“こんばんは”じゃなく挨拶は“おはよう”。
「おはようございます」
「今日も頑張ろうね」
「はい」
冷蔵庫にある食材で、今日はこんにゃくのピリ辛煮を作った。美咲さんが出来たてのこんにゃくを一つ箸で挟み、口に含んだ。
「胸がほっこりするのよね。果穂ちゃんの作るご飯は」
ふふ、と美咲さんが笑う。
「果穂ちゃんのおばあさまがどんな人だったか、あなたの料理を食べただけで分かる。とても優しい人だったんだろうね」
「・・・はい」
返事をしながら胸奥がじくじくと痛み出す。
優しかった祖母に、自分が最後放った言葉が頭に浮かびそうになるのを、必死に引っ込めた。
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