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「いらっしゃい」
店の戸が開き美咲さんが挨拶をする。だけどその声がやや固まっていることが気になり、私も入り口に視線を向ければ、足裏が地面に貼り付いたようになる。
「成仁さん。一人でうちにいらっしゃるなんて、どうなさったの?」
美咲さんが目を見開いた。
「うちには一さんの付き添い、もしくは取引先の方の希望でいらっしゃるでしょう。来てくださって嬉しいけれど驚いたわ」
美咲さんの言葉の後、「うおっ」と言いながら朱音さんが出勤してくる。
「な、何でここに来た!?まさか誰かが何かやらかして、クレーム入れに来たのか?果穂だろう」
「わ、私何もやってません」
慌てて否定すると、柳川成仁が鋭く言った。
「長居するつもりはない。静かに飲ませてくれ」
「すいません。今お通し出します」
カウンター席に座った柳川に、美咲さんがお通しの器を置く。柳川はお通しをしばらく見た後、表情一つ変えず無口で食べた。その様子に、彼が何を考えているのか一切読めなかった。
「どう?本日のお通しは」
美咲さんが首を傾けながら微笑む。
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