1.不評な男

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「料理を作るのは幸田果穂(こうだかほ)といったか」 「そうよ、果穂ちゃんよ」 美咲さんと柳川が私を見ている。 「す、すいません」 柳川という男性客に咄嗟に頭を下げた。 「なぜ謝る」 「お、怒っていらっしゃるので」 目をぎゅっと瞑りながら言う。 「怒ってなどいない」 その強い口調が、スナックみさきの空気をひんやりとさせた。 それからも、柳川成仁は週に一度ずつやってきた。 「今日も来たぞ」 朱音さんが訝しげな顔をしながら私に耳打ちする。 「毎週飲みにくる割にいつも不機嫌そうなの、どうにかならないのか」 未依さんが人差し指を顎に乗せながら言った。 「ねぇ、成仁さん」 スナックみさきで唯一、柳川に気軽に話しかけられるのは、美咲さんのみで。そんな美咲さんが柳川の四度目の入店の時に、突然言った。 「あなたのお父様が松濤(しょうとう)にある柳川家の、家政婦を探しているって聞いたんだけれど本当?」 「なぜそんな質問をする」 閉店三十分前。お客の引いた店内で、柳川がウィスキーのロックをくいと飲み干す。 「果穂ちゃん、お代わり用意して」 「はい」 柳川はウィスキーのロックを三杯飲んで帰ると、暗黙の了解になっていた。
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