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「私たちの界隈で、もっぱら噂になっているわよ。それが本当なら・・・」
美咲さんが隙のない笑みを浮かべている。
「果穂ちゃんはどう?」
「え、美咲さん?」
グラスに氷を入れる手が止まった。
「成仁さん、果穂ちゃんの料理が気に入ったんでしょう。果穂ちゃんが家政婦になったら、お店に来なくても毎日美味しいご飯が食べられるわよ」
私と同じように、朱音さんや未依さんも口を開け、目を丸くして美咲さんを見ている。
「幸田果穂、本人の意見を聞いていない。君は興味があるのか?」
ウィスキーのロックを運ぼうと歩き出したタイミングで、冷えた視線がすっと流れてきた。
動揺で足がぐらつく。
「うわ!」
朱音さんの声が流れると同時、ウィスキーの入ったグラスが私の手から離れる。琥珀色の液体は柳川の顔面に思いきりかかった。
柳川の前髪から水滴が滴っている。一瞬眉が吊り上がったのを、私は見逃さなかった。
「た、大変申し訳ありません!」
カウンター上にあったふきんが目に入り、急いで柳川の髪や頬を拭いた。
「果穂ちゃん、何使って拭いてるの。それ台ふきんよ」
「わわわ、本当に申し訳ありません!」
美咲さんが持ってきてくれたタオルで、柳川の髪を拭き直す。
「自分で拭ける。やらなくていい」
柳川が淡々と言って、私からタオルを攫った。
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