1.不評な男

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「私たちの界隈で、もっぱら噂になっているわよ。それが本当なら・・・」 美咲さんが隙のない笑みを浮かべている。 「果穂ちゃんはどう?」 「え、美咲さん?」 グラスに氷を入れる手が止まった。 「成仁さん、果穂ちゃんの料理が気に入ったんでしょう。果穂ちゃんが家政婦になったら、お店に来なくても毎日美味しいご飯が食べられるわよ」 私と同じように、朱音さんや未依さんも口を開け、目を丸くして美咲さんを見ている。 「幸田果穂、本人の意見を聞いていない。君は興味があるのか?」 ウィスキーのロックを運ぼうと歩き出したタイミングで、冷えた視線がすっと流れてきた。 動揺で足がぐらつく。 「うわ!」 朱音さんの声が流れると同時、ウィスキーの入ったグラスが私の手から離れる。琥珀色の液体は柳川の顔面に思いきりかかった。 柳川の前髪から水滴が滴っている。一瞬眉が吊り上がったのを、私は見逃さなかった。 「た、大変申し訳ありません!」 カウンター上にあったふきんが目に入り、急いで柳川の髪や頬を拭いた。 「果穂ちゃん、何使って拭いてるの。それ台ふきんよ」 「わわわ、本当に申し訳ありません!」 美咲さんが持ってきてくれたタオルで、柳川の髪を拭き直す。 「自分で拭ける。やらなくていい」 柳川が淡々と言って、私からタオルを攫った。
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