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「帰る」
「成仁さん、本当にすいません。当然ですがスーツのクリーニング代は、必ず弁償しますので」
素っ気なく言う柳川に、美咲さんが頭を下げた。
「そんなことはどうでもいい。幸田果穂。家政婦の仕事がしたいのかどうか、次に来る時までに考えておけ」
柳川が上等そうな革のバッグを手に持ち、背を向ける。
「酒をかけられるのは二度とごめんだがな」
「本当に本当に、申し訳ありません」
平謝りしながら、柳川が退店するのを見届けた。
「美咲さん」
「うん?」
「私今、訳が分かりません」
私の言葉に、美咲さんがふふふと笑いかける。
「果穂ちゃん、小料理屋をやりたいんでしょう」
「え、なんでそれを」
「前に自分で言ってたじゃない。カルーアミルク一杯で酔いながら」
「覚えてません・・・」
「おじいちゃんおばあちゃんが営んでいた民宿を小料理屋にするための、お金が欲しいのよね。柳川家の家政婦は、うちより段違いで給料がいいはずよ。開業資金も貯めやすくなるわ」
美咲さんの赤いリップが、いつもより暗めなことに今気づいた。
「成仁は性格悪いぞ。柳川家の家政婦なんて辛いに決まってる」
朱音さんが頭を掻きながら言う。
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