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1.不評な男
「果穂ちゃん、今日のお通しは何を作ってくれるの?」
美咲さんが煙草を美味しそうに吸っている。
「今日はきんぴらごぼうです」
「あのベーコン入りの、よね」
にこっと笑う美咲さんの言葉に頷いた。
刻みベーコン入りのきんぴらごぼうは、二年前に私が、“弁当屋ひのまる”をクビになるきっかけになった料理。そんな料理を今日もこうして作るのは、美咲さんのお気に入りの料理だからだ。
「お昼の賄いを自分流に作っただけでクビにされるなんて、まさか思わないわよね」
美咲さんがやや斜め右上に、煙草の煙を吐く。
肩まで伸びたパーマがかかった黒髪。厚い唇に真っ赤な口紅を塗り、口元に大きなホクロがある、色気のある女の人。
美咲さんは“スナックみさき”のオーナー兼店主だった。
私が前にいた職場、ひのまるの店主さんはおっとりとしたおじさんだったけれど、奥さんの和子さんは勤務初日から当たりが強かった。
言われたことは必ずメモを取り、真面目に働いていたつもりだった。けれど野菜の切り方等、和子さんの基準に満たないと何度もやり直しになり、さらにその基準は日々変わるので、対応がとても難しかった。
例えばにんじんの銀杏切りの厚みは三ミリ程と言われていたのに、ある日三ミリに切っても「もっと厚めに切れ」と叱られるような具合。
居心地のいい職場ではなかったけれど、アルバイトなのに社会保険に加入させてもらえ、何より料理に携われる仕事だったので辞めるまでには至らなかった。
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