2.声を合わせていただきます

1/17
前へ
/344ページ
次へ

2.声を合わせていただきます

大好きな人たちに囲まれながら仕事ができる毎日は幸せだった。 そんな職場を自ら手放してしまうのは結局、私の一番大切なものは“お金”なのだと実感した。 これまで心の中で“柳川”と呼び捨てしていたけれど、今日からは心の中でもきちんと“さん”づけしなければならない。 隣で車の窓を見ている男性は、今日から私の(あるじ)となる人だからだ。 「ここだ」 柳川さんが言うと、専属の運転手さんが運転する黒塗りの車が、閑静な住宅街の中の、豪邸の前に止まる。 「は、はい」 外観は瓦屋根の日本家屋。でも全く古くはない、現代風にアレンジされた、高級旅館のような造り。 門の扉が開かれると大きな池が現れ、ししおどしがタイミングよくカコンと落ちる。 私の背筋がピシリと伸び、手足の動きがカチコチと固くなった。 最低限の荷物をキャリーバッグに詰め、私は今日、柳川さんの迎えの車に乗り込んだ。アパートにあったその他の荷物は明日、柳川家に届く。 「ここが君の部屋だ。荷物が届くのは明日だったよな。なら勤務は、明後日からでいいだろう」 「はい。よろしくお願いします」 深々と頭を下げる。 「俺の両親も月に一、二度、敷地内の別宅に泊まりに来ることになる。会議を兼ねてでもあるが、定期的に視察をしにやって来るだろう」 「視察、ですか」
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4390人が本棚に入れています
本棚に追加