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「・・・ああ」
一瞬、間があった。その間の意味を掴めず、キャリーバッグの持ち手を何となく握り直す。
「特に両親の前ではあの時のようなヘマをするな。君を家政婦として雇ったが、適性が無ければ否応なしにクビにする」
クビという単語に背筋がヒヤリとした。
「はい。粗相のないよう、精一杯働かせていただきます」
「俺はこれから本社に行く。今日含め二日間は自由に過ごしていい。基本的に自分の家のように過ごして構わない。キッチンも風呂も好きに使ってくれ。食材や備品はこのカードで・・・」
一通り説明を受けた後、柳川さんは背を向けて去っていった。
住み込み家政婦として雇われた私専用の部屋は、今まで住んでいたアパート一室分より広くて、自分が突然お金持ちになったかのような錯覚に襲われる。
(全然、お金持ちじゃないのに)
ふぅ、と心の中でため息が出た。
部屋にあった花柄のレースのソファに腰掛けると、全身の力が抜けた。
柳川さんはやはり怖い。どこか偉そうな口ぶりも苦手。
でも雇用契約書にも書かれていた破格の月給を前にすると、どんな試練が待ち受けていようと、やるしかないと思った。
柳川さんの両親が、別宅に時々泊まりに来るといっていたけれど、どんな人たちなのだろうか。
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