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深々と頭を下げながら、声を張って言う。
現れた男性が泥棒ではなく、柳川さんのお父様ではないかと察したからだ。
この家の勝手を知っているような落ち着いた態度に、厳格な佇まいで腕を組みながら、私の前に立っていた。
「ああ、家政婦。私が厳選して人材を用意すると言ったのに、成仁が勝手に雇ったのか」
明らかに不服そうな声色で言う男性。
「私は成仁の父親だ。柳川久徳という。成仁が雇ったということは優秀なんだろうな。両親は何の仕事をしている?」
「りょ、両親はいません。祖父母に育てられましたが、祖父母も亡くなっています」
「・・・」
柳川さんのお父様が眉間の皺を深めた。
「私は家柄も大事だと言ったはずだ。成仁め」
声を顰めて独り言のように言ったが、はっきりと私の耳に届いた。
「まあ良い。仕事が出来なければ人材を替えればいいだけだ。君に教えてやろう。この家は家宝が多くある」
お父様が灰色の瞳を私に向ける。
「ツキセイフードは世界的に有名な企業というのは、君にでも分かるよな」
「はい」
「この家には、ツキセイフード株式会社を立ち上げ、即席麺を世界に広めた一代目の私物や、企業立ち上げに関わる物品等が保管されている。国宝ものと言っていいだろう」
ごほん、とお父様が咳払いした。
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