12.快晴のち、

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「お待たせ果穂ちゃん。四人で飲み直しましょう」 美咲さんが閉店の札をかけ、玄関扉の鍵を閉める。 「私、簡単なおつまみ作りますよ」 初詣の時、未依さんにつまみを頼まれていた。 「いいのー?お願いできる?」 美咲さんが顔の前で手を組んだ。 冷蔵庫に入っていたチーズをフライパンでカリカリになるまで焼く。最後にブラックペッパーをかければ出来上がり。 それからオリーブオイル、酢、塩、砂糖、胡椒を混ぜたマリネ液に、トマトとスライスオニオンを十五分漬け込む。トマトのマリネだ。あとは鶏もも肉にカレー粉で味をつけて炒めたものをテーブルに運ぶ。 味にブレが出てしまいそうな和食は、つまみに選ばなかった。 「果穂の料理久しぶりだわ」 未依さんが手を組み、目を輝かせている。 「クロすけも連れてきたぞ」 朱音さんがクロすけを抱きかかえて連れてきてくれた。 そうして、四人プラス一匹での飲み会が始まる。皆私の作った料理を喜んで食べてくれて、久々に幸せを感じた。 「酒が進むー」 朱音さんがビールをごくごくと飲み干した後、早い段階で報告するタイミングが訪れる。 「家政婦の仕事はどうなの、果穂ちゃん」 美咲さんが朱音さんにお代わりのビールを持ってきた後、訊ねてきた。 「はい。一年間、成仁さんにはすごくお世話になりました。でも家政婦を、三月いっぱいで辞めることにしました」 皆目を見開いて私を見る。場の空気がやや重たくなってしまった。
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