12.快晴のち、

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「あ。白い椿が咲いているわね。綺麗」 美咲さんが呟いた言葉で思い出される。成仁さんが白い椿が咲くと、教えてくれたことを。 まだ一年は経っていないのに、遠い遠い記憶のようで。 毎日庭に出ているのに、白い椿の存在に気づかなかった自分に驚きながら、美咲さんが帰った後も、私は凛と咲くそれを眺めていた。 ツキセイの商品の販売が再開し、イベントまで残すところあと一週間となる。私は相変わらず一人、柳川家の掃除をしていた。 家政婦の仕事自体が楽しい、と思うこともあった。 庭の落ち葉を掃いていると、時々穏やかな風が吹き抜けて小さな幸せを感じ。鯉が餌をパクパクと食べる様子に、心は癒され。 辛いことも色々とあったけれど、充実した一年だった。 夜は成仁さんの夕食を作る代わりに、インスタントラーメンのアレンジレシピの試作を続ける。レシピを手帳にメモしては作り、分量や具材を変えては作り。 ツキセイのインスタントラーメンは、醤油も塩も味噌も美味しい。ツキセイの社員さんの努力が、舌から伝わった。 (今度はまぜそば風にしてみよう) 冷蔵庫からバターを取り出した。
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