12.快晴のち、

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「・・・はぁ」 従業員の事務所のテーブルでコンビニのサンドイッチをひと口食べるけれど、胸がつかえてそれ以上進まない。 「幸田さん、大丈夫?」 「はい。緊張してきちゃって」 「アシスタント役として僕も隣にいるから」 中町さんの優しい笑顔に、胸のつかえが少しとれた気がする。私はもう一度深呼吸し、ペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。 ツキセイフードが主催するラーメン博物館でのイベントは昼の十三時から、外の広場で開催された。私は中町さんと一緒に赤いエプロンを着てステージに立つ。 眼前に広がるたくさんの観客に、吐き気を催しそうなくらいの緊張が走る。手汗をハンカチでぎゅっと握ると、中町さんがニコッと笑い、「大丈夫」と声を発さずに言ってくれた。 司会の挨拶が終わると、私は固くなった頬を無理やり上げ笑顔を作る。 「今日は三つの紹介したいと思います。家にある食材で簡単に作れるレシピを考えました」 手前に立っているラーメン丸くんが、ぴょんぴょん跳ねた。 「まずはこの醤油ラーメンのインスタント麺を使って、油そば風を作ります」 レシピを作ることになってから、油そばを知った私。 「まず器にごま油と、付属の粉を混ぜておいてください」 鍋で麺を茹でるだけというだけなのに、手がおぼつかない。でも中町さんが手際よく水を入れてくれたり、鍋をコンロから落としそうになれば手で支えてくれる。 中町さんがいてくれて、本当に心強かった。 「最後にネギと白ゴマ、それから卵の黄身を落としたら出来上がりです。お好みで刻んだ紫蘇を入れても美味しいです。どうでしょうか、簡単だと思いませんか?」 調子が出てきて、笑顔も上手く作れるようになってきた。
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