4392人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・はぁ」
従業員の事務所のテーブルでコンビニのサンドイッチをひと口食べるけれど、胸がつかえてそれ以上進まない。
「幸田さん、大丈夫?」
「はい。緊張してきちゃって」
「アシスタント役として僕も隣にいるから」
中町さんの優しい笑顔に、胸のつかえが少しとれた気がする。私はもう一度深呼吸し、ペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。
ツキセイフードが主催するラーメン博物館でのイベントは昼の十三時から、外の広場で開催された。私は中町さんと一緒に赤いエプロンを着てステージに立つ。
眼前に広がるたくさんの観客に、吐き気を催しそうなくらいの緊張が走る。手汗をハンカチでぎゅっと握ると、中町さんがニコッと笑い、「大丈夫」と声を発さずに言ってくれた。
司会の挨拶が終わると、私は固くなった頬を無理やり上げ笑顔を作る。
「今日は三つの紹介したいと思います。家にある食材で簡単に作れるレシピを考えました」
手前に立っているラーメン丸くんが、ぴょんぴょん跳ねた。
「まずはこの醤油ラーメンのインスタント麺を使って、油そば風を作ります」
レシピを作ることになってから、油そばを知った私。
「まず器にごま油と、付属の粉を混ぜておいてください」
鍋で麺を茹でるだけというだけなのに、手がおぼつかない。でも中町さんが手際よく水を入れてくれたり、鍋をコンロから落としそうになれば手で支えてくれる。
中町さんがいてくれて、本当に心強かった。
「最後にネギと白ゴマ、それから卵の黄身を落としたら出来上がりです。お好みで刻んだ紫蘇を入れても美味しいです。どうでしょうか、簡単だと思いませんか?」
調子が出てきて、笑顔も上手く作れるようになってきた。
最初のコメントを投稿しよう!