12.快晴のち、

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「次は塩ラーメンのカルボナーラ風を作ります。・・・なになに、ラーメン丸くんも食べたいの?」 ラーメン丸くんが私の方を見て口を押さえる仕草をしたのでそう言った。すると観客からどっと笑い声がして、私もだんだん楽しくなってくるのだった。 「まずはベーコンと玉ねぎを刻みます」 「ベーコンは短冊切り、小さめに切るんですね」 中町さんがレシピの詳細を付け足すように、話してくれる。テレビのクッキング番組のように、上手く進行することができた。 予め抽選で選ばれていたお客様の試食も終わり、三つ目のレシピ、天津風ラーメンに取り掛かろうとした時だった。 たくさんの観客がいるのに私は・・・端の外れたところで、立ちながらこちらを見ている成仁さんの姿を見つける。 (都内のスーパーでイベントをしていたんじゃないの?なんでここにー・・・) 中町さんは動揺の一切ない、完璧な笑顔で隣にいる。成仁さんがいることに、気づいていないのかもしれない。 (でも、もういい。このレシピを作ったら終わりよ) 私は成仁さんを見なかったことにして、料理を作り続けた。 久々に成仁さんの姿を見て、蘇ってくる好きという気持ちと、それをやや上回る怒りが込み上げてきて、表に出ないように抑えながら天津風ラーメンに使うカニカマを割く。 「ー・・・最初に刻んだねぎをごま油で炒めます」 成仁さんがこの空間にいると意識しないように、フライパンを動かす自分の手元だけに集中した。
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