12.快晴のち、

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「ー・・・幸田さん」 でも。中町さんに手首を掴まれた時はっとする。 今日一日、中町さんには散々お世話になったのに、こんな帰り方はあんまりだと自分で少し冷静になった。 「すいません、身勝手に早々と帰ろうとしてしまって」 脱いだエプロンを腕にかけながら頭を下げる。 「僕が送ってくから。一緒に帰ろう」 どこか寂しそうに笑う中町さん。その様子に、私の頭の中が不安で覆いつくされる。 「大丈夫ですか、中町さん。私がイベントに参加したことがバレて、秘書の仕事が無くなったりなんてこと、まさか・・・」 「ううん、ないない」 そう言うけれど、じゃあなんでそんな風に、笑うんだろう。 「中町さん、本当のこと言ってください」 アーモンドみたいな瞳を真っ直ぐ見つめれば、中町さんがふっと笑って。 「そんな見つめられると、困るんだけど」 台詞の意味が分からないために、口ごもってしまった。 「僕が柳川さんの第一秘書でなければ、間違いなく幸田さんに今日、告白してた。柳川さんの秘書という自分の立場を、これ程悔やんだことはない」 その時風がびゅうっと吹いて、私の腕にかけていたエプロンが舞い上がる。慌てて取りに行こうとしたら、背の高い、黒髪の人形のような男がそれを掴んだ。 「・・・でも柳川さんの秘書だったからこそ、君に出会えた」 今度は呆れたように笑いながら、中町さんが成仁さんに声をかけた。 「まだ何か用ですか、柳川さん」 成仁さんが無表情でこちらを見ている。 「結局僕たちのこと追ってきたんですね。エプロン返してください」
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