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「ー・・・幸田さん」
でも。中町さんに手首を掴まれた時はっとする。
今日一日、中町さんには散々お世話になったのに、こんな帰り方はあんまりだと自分で少し冷静になった。
「すいません、身勝手に早々と帰ろうとしてしまって」
脱いだエプロンを腕にかけながら頭を下げる。
「僕が送ってくから。一緒に帰ろう」
どこか寂しそうに笑う中町さん。その様子に、私の頭の中が不安で覆いつくされる。
「大丈夫ですか、中町さん。私がイベントに参加したことがバレて、秘書の仕事が無くなったりなんてこと、まさか・・・」
「ううん、ないない」
そう言うけれど、じゃあなんでそんな風に、笑うんだろう。
「中町さん、本当のこと言ってください」
アーモンドみたいな瞳を真っ直ぐ見つめれば、中町さんがふっと笑って。
「そんな見つめられると、困るんだけど」
台詞の意味が分からないために、口ごもってしまった。
「僕が柳川さんの第一秘書でなければ、間違いなく幸田さんに今日、告白してた。柳川さんの秘書という自分の立場を、これ程悔やんだことはない」
その時風がびゅうっと吹いて、私の腕にかけていたエプロンが舞い上がる。慌てて取りに行こうとしたら、背の高い、黒髪の人形のような男がそれを掴んだ。
「・・・でも柳川さんの秘書だったからこそ、君に出会えた」
今度は呆れたように笑いながら、中町さんが成仁さんに声をかけた。
「まだ何か用ですか、柳川さん」
成仁さんが無表情でこちらを見ている。
「結局僕たちのこと追ってきたんですね。エプロン返してください」
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