12.快晴のち、

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それから十日後、松濤の柳川家を出る日がやってきた。ダンボールに荷物は詰め終わっている。実は中町さんが二日前にも訪れてきて、荷物をまとめる作業を手伝ってくれた。 あとは業者さんに荷物を運んでもらうだけ。 そんな私は今、お弁当を作っている。冷蔵庫に食材等残したままでいいからと、中町さんから頼まれたからだ。 最後のおにぎりを握り終わって箱に詰めた時、インターホンが鳴る。 「はい、どうぞー」 中町さんの姿を確認し、門の施錠を解除した。 「引越しする最終日に、お弁当なんて頼んでごめんね。それも二つも」 中町さんは、松濤の家の勝手を知っているように上がり込む。 「いえいえ。中町さんが引越しの手伝いをしてくださったのもあり、今日は余裕がありました。業者さんが来るまであと三十分ですね」 「寂しくなるな」 「私もです」 「幸田さんの行き先、僕にだけは教えてもらえたりしない?」 「成仁さんに教えたりしないなら」 「僕だけの秘密にする。約束するよ」 私は中町さんに耳打ちした。 「伊豆にはまだ戻らないんだね」 「はい。戻るには金銭的にも精神的にもまだ早いし、一度祖父母以外の人の下で、料理を学ぶという選択肢は外せませんでした」 「都内に残ることもしないのか」 「東京(ここ)で色んな思い出を作りすぎました。少し距離を置きたいんです」 「あのさ、幸田さん」 中町さんの目が、少し泳いだ気がした。
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