12.快晴のち、

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「柳川さんはツキセイの不祥事だけじゃない何かを、抱えているように見える。僕の推測だけれどね。ずっと側で見てきたけど、最近の柳川さんは今までで一番変だよ」 中町さんが斜め右下に視線を落としてから、また前を向く。 「・・・そしてあの人は今でも、幸田さんが好きだよ。本当は今日だって、最後にひと目会いたかったはずなんだ」 中町さんにそう言われても、成仁さんのこれまでの行動が行動だから信じられない。けれど最後に言われた台詞だけは、心から離れてくれずにいる。 “自分の料理に誇りを持て” そうなれるように私は、ここを出るのだ。 「お弁当もらってくね。美味しそうな匂いがすでにするから、楽しみだよ」 「中町さん、お弁当二つお食べになるんですか?」 質問しながらも、答えは分かっている。もう一つのお弁当の行く先も。 「そうだよ。僕が二つ食べるんだ」 「そうですか。お腹壊さないでくださいね」 小さく笑ったら、中町さんもふっと笑った。 その後引越し業者さんが来て、荷物を全てトラックに詰め入れる。スポーツドリンクの差し入れをして、業者さんにお礼を言った。 トラックが走り去った後、中町さんに松濤の鍵を渡して、最低限の洋服だけが入ったスーツケースを転がし、松濤の家を後ろに歩き出す。 枯れ始めた白椿を横目に見た後、私は中町さんの姿が見えなくなるまで手を振った。 次の住居地は、栃木県日光市。上野駅から宇都宮駅まで新幹線で約五十分。そこから日光線に乗る。 でもスナックみさきに寄るために、宇都宮線には乗らず、上野駅から地下鉄へと向かった。 お昼の時間帯だけれど、美咲さんたちはお店に集まってくれているみたいだ。感謝の気持ちに包まれながら、駅を降りて徒歩十分後、私はスナックみさきの戸を開ける。
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