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だけどある日お昼の賄い料理に、細切りしたごぼうが余っていたので、きんぴらごぼうを作ったらクビになった。
きんぴらごぼうなのにベーコンが入っていて、醤油より麺つゆを多めに入れたレシピが、「ひのまるのレシピ通りに作らないなんて馬鹿にしているのか」と怒られる。
「自分のやりたいように作りたいなら、自分で店をやれ」
そう言われた後、二度とひのまるのキッチンに立つことができなくなった。
ベーコン入りのきんぴらごぼうは今は亡き祖母の、直伝のレシピだった。
「あーいい匂い。ありがとうね、果穂ちゃん。さてあと十五分で店開けるわね」
美咲さんがきんぴらごぼうをひと口つまんで、可愛らしく笑う。外見だけじゃなくて心までも、これ程綺麗な人を私は見たことがなかった。
ひのまるをクビになった帰り道。
私は自宅最寄駅近くのスナックの戸を開ける。
“アルバイト募集中 時給二千円〜”
二週間前から店前に、従業員募集の紙が貼られているのを知っていて飛び込んだ。弁当屋をクビになったからと、くよくよ落ち込んでいる暇は私にはなかった。
“お金がほしい”
私の頭の中は八割以上、この考えで占めていた。
「何故ここで働こうと思ったのか」という質問に、「お金がとにかく欲しいからです」と面接で馬鹿正直に答えたのを今でも覚えている。
美咲さんはそんな私の受け答えに、長い間笑っていた。
色気も華もない私を雇ってくれた美咲さんに、感謝しきれないくらい感謝している。
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