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「お疲れっすー」
スナックみさきの従業員の一人、朱音さんが出勤してきた。大きなお団子の形に髪をまとめて、いつも黄色やピンク等、明るい色のワンピースを着ている。
「おー、果穂は料理上手だな。さすが」
バシバシと私の背を朱音さんが叩いた。
「できるのは料理だけよ、料理だけ。昨日もグラス割ったんだから」
「すいません、未依さん」
「今日はしっかり接客するのよ」
一重瞼で涼しげな目元をした、しっかり者の未依さんは、お客様からアジアンビューティーと言われている。
「店開けて頂戴」
美咲さんの言葉に「はい」と返事する。戸の鍵を開け、“商い中”と書かれた木札をかけた。
スナックみさきに通うお客様の層は厚い。打ち上げ終わりにしっぽりと飲むお客様から、わいわい話したり歌ったりするお客様、それからそれぞれの従業員目当てに通うお客様ももちろんいる。
私を除く従業員はみんな、多くの固定客を抱えていた。
「果穂ちゃん、ビールお代わり」
常連客の小林さんが言う。
「はーい」
空のビールグラスを笑顔で片付けた。
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