1.不評な男

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お代わりのビールを小林さんのテーブルに置いた時。 「いらっしゃーい・・・」 朱音さんの挨拶の語尾がふいに下がる。扉が開く音と同時に、店内の空気が一瞬冷えた。 不思議に思い入り口に目をやると、二組の男性客が入ってきた。 一人はボサボサの髪で眼鏡をかけた男性。もう一人は背の高い、濡れたような黒髪の男性。その男性は顔立ちがすっきりと整っているのもあり、皆の目を引いた。 私は見たことがないお客様なので、恐らく常連客ではないだろう。 「あら、久しぶりじゃない」 気安い声をかけたのは美咲さん。 「何年ぶりよ」 美咲さんの声がけに無反応な黒髪の男性客を見かねて、眼鏡の男性客が明るく答えた。 「二年ぶりかな。俺たち二年間アメリカに行ってたんだ。俺はフリーランスだからどこでも仕事ができるだろ。だから成仁(なりひと)について行ってやったんだよ」 「来るなとあれだけ言ったのに、勝手についてきたんだろう」 成仁と呼ばれている男性が素っ気なく言う。 「そうだったの。好きな席に座って頂戴」 にこやかに言ってから美咲さんは、お通しを盛りつけ始めた。 「果穂」 小さな声で朱音さんに呼ばれる。 「は、はい」 朱音さんの手招きに歩み寄った。 「成仁(あいつ)への接客はより慎重に丁寧に心がけること。眼鏡の方じゃないよ、黒髪の方だ。超イケメンの超金持ちだけど、中身は最悪だ」
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