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お代わりのビールを小林さんのテーブルに置いた時。
「いらっしゃーい・・・」
朱音さんの挨拶の語尾がふいに下がる。扉が開く音と同時に、店内の空気が一瞬冷えた。
不思議に思い入り口に目をやると、二組の男性客が入ってきた。
一人はボサボサの髪で眼鏡をかけた男性。もう一人は背の高い、濡れたような黒髪の男性。その男性は顔立ちがすっきりと整っているのもあり、皆の目を引いた。
私は見たことがないお客様なので、恐らく常連客ではないだろう。
「あら、久しぶりじゃない」
気安い声をかけたのは美咲さん。
「何年ぶりよ」
美咲さんの声がけに無反応な黒髪の男性客を見かねて、眼鏡の男性客が明るく答えた。
「二年ぶりかな。俺たち二年間アメリカに行ってたんだ。俺はフリーランスだからどこでも仕事ができるだろ。だから成仁について行ってやったんだよ」
「来るなとあれだけ言ったのに、勝手についてきたんだろう」
成仁と呼ばれている男性が素っ気なく言う。
「そうだったの。好きな席に座って頂戴」
にこやかに言ってから美咲さんは、お通しを盛りつけ始めた。
「果穂」
小さな声で朱音さんに呼ばれる。
「は、はい」
朱音さんの手招きに歩み寄った。
「成仁への接客はより慎重に丁寧に心がけること。眼鏡の方じゃないよ、黒髪の方だ。超イケメンの超金持ちだけど、中身は最悪だ」
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