1.不評な男

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「果穂ちゃん、ちょっと来て」 怖い男性客の存在を頭から消そうと、他のお客様にお酒を注ぎながら談笑していたら、美咲さんに呼ばれる。 美咲さんはニコニコと笑みを浮かべていた。 「はい、なんでしょうか」 「このお通し作ったの、果穂ちゃんよね」 「はい、そうです」 「うちの軽食メニューは全て果穂ちゃんが作っているのよ」 美咲さんの台詞を横で聞いていたら、怖い男性客とばちりと目が合う。 足がすくんだ。 「・・・」 男は何も言わずに、ただ私を見つめている。 こんなにも恐怖心で全身が固まったのは、小学校の遠足でお化け屋敷に入った時以来だ。 「美味しいでしょう。気に入った?なんなら、フードメニューも頼む?」 美咲さんは余裕そうに笑みを浮かべながらメニュー表を差し出すと、男は黙ったまま受け取った。 「高菜チャーハン」 男に不似合いな単語がぼそりと出る。 「果穂ちゃん、高菜チャーハンだって」 「あ、はい。少々お待ちください」 背筋を伸ばしキッチンに向かった。 「果穂ちゃんはね、うちのキッチン担当なのよ。とっても助かっているわ」 「へぇ。初めて見る子だなと思ったよ」 私が食材を並べる裏で、美咲さんと眼鏡の男性客の会話が聞こえた。
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