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「果穂ちゃん、ちょっと来て」
怖い男性客の存在を頭から消そうと、他のお客様にお酒を注ぎながら談笑していたら、美咲さんに呼ばれる。
美咲さんはニコニコと笑みを浮かべていた。
「はい、なんでしょうか」
「このお通し作ったの、果穂ちゃんよね」
「はい、そうです」
「うちの軽食メニューは全て果穂ちゃんが作っているのよ」
美咲さんの台詞を横で聞いていたら、怖い男性客とばちりと目が合う。
足がすくんだ。
「・・・」
男は何も言わずに、ただ私を見つめている。
こんなにも恐怖心で全身が固まったのは、小学校の遠足でお化け屋敷に入った時以来だ。
「美味しいでしょう。気に入った?なんなら、フードメニューも頼む?」
美咲さんは余裕そうに笑みを浮かべながらメニュー表を差し出すと、男は黙ったまま受け取った。
「高菜チャーハン」
男に不似合いな単語がぼそりと出る。
「果穂ちゃん、高菜チャーハンだって」
「あ、はい。少々お待ちください」
背筋を伸ばしキッチンに向かった。
「果穂ちゃんはね、うちのキッチン担当なのよ。とっても助かっているわ」
「へぇ。初めて見る子だなと思ったよ」
私が食材を並べる裏で、美咲さんと眼鏡の男性客の会話が聞こえた。
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