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フライパンにごま油を熱する。チャーハンの卵は、私はご飯と一緒に入れる派だった。米粒にきっちり卵が纏った、しっとりチャーハンが好き。
白飯と同タイミングで溶き卵を入れて炒める。
祖母が昔、お昼によく作ってくれたチャーハンも、しっとりしていたことを思い出した。
最後に刻んだ高菜を加え、炒めれば出来上がり。
「お、お待たせしました」
高菜チャーハンを盛ったお皿を持つ手がプルプル震える。重さから来るのではなくて、男のオーラに圧倒されているからだった。
男は黙ったまま食べ始める。ひとつ瞬きした後、スプーンを運ぶ手を一回、二回と重ねる。終始無言でゆっくりと食べていた。
「み、美咲さん」
「うん?」
美咲さんの耳元に口を寄せる。
「だ、大丈夫ですかね。あの人怒らないでしょうか」
「どうして?」
「飯がまずいって・・・」
笑みひとつない固い表情がそう思わせる。
「いいえ。顔には出ないけれど、果穂ちゃんの料理を気に入ったみたいよ」
「え」
もう一度客席に視線を動かしたら、眼鏡の男性客がニヤニヤと、成仁と呼ばれる男の方を見て笑っていた。
「珍しいじゃん、お前が飲み屋でしっかり飯食うの。よっぽど気に入ったんだな」
眼鏡の男性客の言葉に、男は返事をしなかった。
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