プロローグ

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プロローグ

男の前髪から水滴が滴っている。十三年寝かせた日本産ウィスキーを、私が溢してしまったからだ。 ポーカーフェイスを保った、目鼻立ちの綺麗な塩顔の男は、ツキセイフード株式会社の次期代表取締役。 所謂(いわゆる)御曹司というご身分で、名前は柳川成仁(やながわなりひと)という。 「た、大変申し訳ありません!」 慌てながら柳川の髪をごしごしと拭く。 「果穂(かほ)ちゃん、何使って拭いてるの。それ台ふきんよ」 「わわわ、本当に申し訳ありません!」 柳川の眉が一瞬ピクリと吊り上がり、体が芯からぶるぶると震えた。 ー・・・そう。彼から見る私は、最悪だったはずで。 それでも柳川家の家政婦として雇われた私は今日も、能面のような柳川成仁と、「いただきます」を言った。
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